宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 4, 87, 2017

一般演題 A

5. ECMO装着患者の航空搬送事例の検討

立石 順久

千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学

A Case of Air Transportation of Critically Ill Patients on Extracorporeal Membrane Oxygenation

Yoshihisa Tateishi

Emergency and Critical Care Medicine, Graduate school of medicine, Chiba University

ECMO症例の増加・高度化に伴い,当院への集約のための搬送あるいは特殊治療のための搬出症例が年々増加しており,近年は救急車による陸路搬送のみならず,長距離を中心に航空搬送症例が増加している。しかし,ECMOは生命維持のため中断できない人工臓器であり,また同時に他の装置も必要としていることが多いため,安全かつ迅速な搬送には多くの課題がある。本発表では当院でのECMO装着患者の航空搬送事例を自衛隊機搬送と消防ヘリによる搬送の2症例を中心に紹介し,その特徴と課題について報告する。
 自衛隊機搬送症例は21歳女性,呼吸不全の急性増悪のため入院した。呼吸状態が急激に悪化したためVV-ECMOを導入し,その後他施設での肺移植を行うこととなった。長距離搬送かつ重症度,装着器機等の関係から航空自衛隊機動衛生ユニットを用いた搬送が不可欠と判断した。自衛隊機での搬送は県知事から依頼する災害派遣の扱いとなるため,県庁,航空自衛隊の各部門と自衛隊機での搬送の必要性の要件となる緊急性,非代替性の証明,搬送日時や搬送区間および天候不良時などの代替策の設定,患者状態や携行資機材などの情報共有を行った。当日は1.5時間の飛行の他,空港と病院間の陸路搬送,載せ替えなどで全体で5.5時間の行程となった。C130輸送機による航空搬送中は電源や酸素配管,固定のための装備などを備えた専用ユニットの中で航空機動衛生隊員の協力の下,治療を継続した。このユニットへの載せ替えを含め移送中頻回の患者・機器移動が必要であったが当院ではバックボード上に多くの医療資機材を安定して固定できる専用架台(バックボードツリー)を開発し活用しており,搬送中のラインなどのトラブルを回避し,移動時間の短縮にもつながった。また長距離搬送においては電力および酸素の余裕を持った確保が重要となるが機動衛生ユニットは十分な酸素と電力変換装置を備えており,電力・酸素の供給問題が解消された。気圧の低下に関しても今回の飛行は6,000 mと比較的低高度で飛行していただき,気圧低下による輸液ボトルや挿管チューブのカフなどの膨張は認めず,また予備のECMO回路内にも気泡生成などの変化は認めず,患者さん自身の呼吸状態にも変化は認めなかった。
 消防ヘリ搬送症例は県内の救命センターで劇症型心筋炎により一時心肺停止となった25歳女性。さらなる治療の為に当院に転院することとなった。移送準備のため当院ECMOチームが先に先方病院に入って,移送のための安定化・パッケージングを進めることで屋上ヘリポートでエンジンを止められない消防防災ヘリを待たせることなく迅速な搬入を行うことができ,トラブル無く搬送した。ヘリコプターの場合スペースに余裕はないが,当院ではバックボードツリーの高さをヘリの間口に合わせ,必要な機器を上方に積み上げることで搬送を可能にしている。また,限られたスペースのため着座位置により見える部分,届くものが限られるため,スタッフ間で綿密に役割分担をして搬送中の安全を確保している。
 このように,固定翼,ヘリとも積み込みに工夫が必要で,安全な搬送の為には事前の十分な安定化とトラブルに備えたシミュレーションが必要である。今後関係機関との調整も含め事前準備や関連知識の蓄積・共有による搬送技術のさらなる向上が不可欠で関係者間による標準化が望まれる。