宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 4, 86, 2017

一般演題 A

4.　パイロットの花粉症治療と規制

吉田　真平1，藤田　真敬2，髙田　邦夫3，田村　敦4，辻本　由希子1

1航空自衛隊　航空開発実験集団　航空医学実験隊
2防衛医科大学校　防衛医学研究センター　異常環境衛生研究部門
3航空自衛隊　目黒基地　医務室
4自衛隊中央病院　耳鼻咽喉科
（前　国土交通省　航空局安全部　運航安全課　乗員政策室）

Pilot’s treatment and regulation of hay fever

Shinpei Yoshida1, Masanori Fujita2, Kunio Takada3, Atsushi Tamura4, Yukiko Tsujimoto1

1Aeromedical Laboratory, Air Development and Test Command, Japan Air Self-Defense Force
2Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute, National Defense Medical College, Japan
3Clinic, Meguro Air Base, Japan Air Self-Defense Force
4Department of Otorhinolaryngology, Japan Self-Defense Forces Central Hospital
（ex-Personnel Licensing Policy Office, Flight Standards Division, Aviation Safety and Security Department, Civil Aviation Bureau, Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism, Japan）

はじめに:我が国の花粉症有病率は非常に高く，欧米の2倍とされる。国民の大きな関心事であり，医学的な影響はもとより，航空業務の安全管理への影響が大きい。現在，我が国の花粉症のパイロットは，フェキソフェナジン，ロラタジンのみ服用可能である。また，米国では既にデスロラタジン，モンテルカストの内服が可能である。日米における規制の詳細を調査した。
　方　法:医学中央雑誌，PubMed，Yahoo，Google等の公開情報から，パイロットの花粉症治療の規制について日本と米国の比較を行った。
　結　果:米国運輸省連邦航空局（FAA），米空軍（USAF），米海軍（US Navy），国土交通省航空局（JCAB），航空自衛隊（JASDF）のパイロットの花粉症治療の規制に関する情報を得た。フェキソフェナジン（アレグラ®），ロラタジン（クラリチン®）に比べ，デスロラタジン（デザレックス®，クラリネックス®），モンテカルスト（シングレア®）の飛行安全に関わる副作用は非常に少なく，米国におけるパイロットの使用は理にかなっている。フェキソフェナジン（アレグラ®），ロラタジン（クラリチン®）は，日米のパイロットの花粉症治療薬として広く普及している。我が国で内服中の飛行停止とされるデスロラタジン，モンテカルストについて，米国では飛行が可能である。デスロラタジン（デザレックス®，クラリネックス®）は，FAAでは数日，USAFは飛行禁止，US Navyでは投薬開始から7日間の観察後，内服中の飛行が可能である。モンテカルスト（シングレア®）は，FAA，USAFでは，内服中の飛行が可能，US Navyでは投薬開始から7日間の観察後，内服中の飛行が可能である。
　考察と結論:米国で許可されているデスロラタジン，モンテカルストについて，我が国で飛行業務中の内服が許可されていないが，飛行安全に関わる副作用は非常に少ない。FAAの規制にならえば，デスロラタジン，モンテカルストはパイロットの花粉症治療薬として，輸送機，回転翼機のパイロットに許容可能と思われる。USAF，US Navyの規制にならえば，デスロラタジン，モンテカルストはパイロットの花粉症治療薬として，戦闘機パイロットに条件付きで許容可能と思われる。