宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 4, 85, 2017

一般演題 A

3. タブレットPCによる体動揺の計測―Human Bio-loggingの提案

長谷川 達央

明石市立市民病院耳鼻咽喉科

Measurement of body sway using a tablet PC

Hasegawa Tatsuhisa

Department of otolaryngology, Akashi city hospital

背景と目的:Bio-loggingとはデータロガーを野生生物に取り付けて画像やデータを記録し,行動や生態を調査する手法である。データロガーは生物の通常の行動で破損しない強度が求められ特殊な機器が使用される傾向がある。このような調査を人間に対して行う場合は,データロガーや筐体の強度はさほど要求されない。その観点から今回,汎用性の高い民生品で人間の姿勢を計測できるかを検討した。
 方法:タブレットPC内臓の6軸センサーを用い,それを両手で骨盤の前で保持している被験者の姿勢の動揺を50 msecごとに記録するアプリを作成した。静的な姿勢の動揺を測定するための手法として足圧中心動揺のデータと比較した。11名の健常被験者に対して行った。
 結果:タブレットPCで得られた水平方向の加速度データと足圧中心動揺の間に近似性が得られた。11人の被験者全体では一部の被験者を除いて,水平方向の加速度と足圧中心の間に軌跡長と動揺面積で良い相関が得られた。
 まとめ:今回,人間の姿勢について,輸送が制限される特殊環境でも利用しやすい汎用機器で測定可能な項目があることを示した。今後火星で人類が生活することになった場合,0.3 G環境で活動することとなる。この環境で人がどのように姿勢をコントロールしながら生活するのかはまだあまりわかっていない。対象が人間であっても特殊環境における未知の行動様態を調査するためには野生生物と同様にBio-loggingの手法が有用と思われる。そして人間が対象であれば汎用性・携帯性の高い機器で,野生生物より簡便に実施できる可能性がある。