宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 4, 82, 2017

最優秀論文賞受賞講演

10. 鼓膜温測定によるメニエール病の評価,および気象との関連性について

北島 尚治1,2,北島 明美1,3,北島 清治1

1北島耳鼻咽喉科医院
2東京医科大学耳鼻咽喉科
3聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科

Evaluation of Meniere’s disease using tympanic membrane temperature and relevance between tympanic membrane temperature and weather

Naoharu Kitajima1,2, Akemi Sugita-Kitajima1,3, Seiji Kitajima1

1Kitajima ENT Clinic
2Department of Otolaryngology, Tokyo Medical University
3Department of Otolaryngology, St. Marianna University School of Medicine

【はじめに】 一般的に鼓膜温 (Tympanic membrane temperature;TMT)はヒトの深部体温の指標とされているが,これまでメニエール病(Meniere’s disease;MD)発作と TMT との関連性が指摘されてきている。今回我々は MD 患者の TMT の左右差とめまい発作との間に興味深い結果を得たので報告する。
 【対象と方法】 MD 患者 11 名(男性:女性=3:8; 59±16 歳)を MD 群とし,健常ボランティア 8 名(男性:女性=1:7; 52±11歳)をコントロール群とした。各群に TMT 記録用紙を渡し,MD 群では 20 分以上持続する回転性めまいを生じた場合に「めまい発作あり」として約1か月間記載させた。TMT測定にはOMRON社の鼓膜式体温計 MC-510 を用い,測定期間中はこれを全対象者に対し配布した。
 今回,両耳間のTMT差をpercent TMT asymmetry (%TMTA)と称して下記のように定義した。
 %TMTA(MD群)=100(Ta−Tu)/(Ta+Tu). (Ta:患側 TMT, Tu:健側 TMT)
 %TMTA(コントロール群)=100(Tr−Tl)/(Tr+Tl) or 100(Tl−Tr)/(Tl+Tr). (Tr:右耳 TMT, Tl:左耳 TMT)
 さらに気象因子が TMT に与える影響を調査するため気象データと比較検討した。
 また本研究に先んじて,MC-510 への環境温による影響を確認するため健常ボランティア264名(男性:女性=84:180; 51±17 歳)に対し次の検討を行った。
 検討1) 十分に安静を保った上で,同一検測者により,右耳の TMT 測定を2度行い,各回の測定値間での相関検定,および有意差検定を行う。2回目の測定は 1回目の測定後1分以上あけてから行う。
 検討2) 検討1で得られた測定値(1回目)と測定時の気温とで相関検定を行う。
 有意差検定は The Mann-Whitney U test および The Pearson contingency coefficient を行い,p<0.05 で有意差ありとした。
 【結果】 健常ボランティア 264 名の右耳における TMT の平均値は,1 回目が 35.72±0.47℃,2 回目が35.78±0.47℃であり,両測定値間で有意差を認めなかった。さらには環境温と TMT 値とで有意な相関を認めず,環境温は TMT にほとんど影響しなかった。
 コントロール群の平均%TMTAは−0.07±0.28(右−左)および 0.07±0.28(左−右)であった。MD 病患者の平均%TMTA は 0.11±0.59 であった。発作期の平均%TMTA は 0.19±0.62 と非発作期(0.10±0.58)と比べ高値で,コントロール群より有意に高かった。%TMTA と気象因子とは関連性を認めなかったが,発作は湿度の上昇に伴い有意に生じた。
 【考察】 一般的に TMT は脳血流,主に外頸動脈の温度を表すと言われる。外頸動脈はまた内リンパ嚢を還流しており,これより我々は TMT の変動は内リンパ嚢の血流量変化を,%TMTAの変化は内リンパ嚢の虚血・再灌流を反映し,虚血の結果内リンパ水腫が引き起こされると推測した。TMT 測定は MD の評価に役立つとともに,非侵襲的な検査であるため患者が症状を自己管理するのにも有用と思われた。
 Kitajima N et al. J.J. Aerospace Env. Med. 2016;53(1):1-8.