宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 4, 79, 2017

シンポジウム 4

「放射線障害」

7. 放射線療法

淡河 恵津世

久留米大学放射線治療センター

Radiation therapy

Etsuyo Ogo

Radiation Therapy Center, Kurume University

本邦における被ばくにおいて医療被ばくが多くを占め,それらは診断から各種治療まで多岐にわたっている。放射線療法は局所療法のひとつであるが,手術・化学療法・分子標的治療などとも組み合わされる集学治療としての役割も大きい。国内で新規に放射線療法を受けるがん患者数は1995年に10万人以下であったが,2009年には20万人とやく2倍に増加している。しかしながら医療先進国である日本において,がん診療に対して放射線療法を行う比率は30〜40%程度であり,欧米諸国(56〜66%)と比べると低い数字である。
 放射線の生物効果は,細胞レベルではDNA 2本鎖切断にある。その作用には直接作用と間接作用があるといわれ,直接作用はDNAの2本鎖を直接的に切断する力を意味し,間接作用は周囲の分子が放射線のエネルギーを吸収しラジカルなどの活性体をつくり,その活性体が標的分子と反応して障害を及ぼすことを意味する。一般的にX線治療は約3分の2が間接作用であり,炭素イオン線に代表される高LET(Linear energy transfer)は直接作用の比率が高いといわれているため,これらを用いた治療後の効果発現の時間が異なる。放射線療法の効果はBergonie-Tribondeauの法則に基づき,細胞分裂の頻度が高い細胞,細胞分裂の回数が多い細胞,未分化な細胞に感受性が高いとされている。一方,細胞環境は高酸素環境やM期(細胞分裂期)に感受性が高く,低酸素環境やS期(DNA合成期)には感受性が低い。そのため,放射線療法を施行するにあたっては,分割照射で治療することにより正常細胞とがん細胞の障害を考慮して最小の有害事象と最大の効果を期待する。
 放射線療法は,① 患部の機能・形態の温存に優れている,② (例外はあるものの)いかなる部位においても治療が可能である,③ 合併症が少なく,高齢者にも適応できるという利点がある一方,長期生存が可能な場合における合併症・二次がんの問題なども考慮しなければならない。また,その内容は,従来の光子線・電子線に加え,粒子線・中性子線を使用しての複雑な時代になってきている。
 放射線療法の問題点は,① 病巣の組織の放射線感受性により効果に差がでる,② 病巣と正常組織の放射線感受性の違いにより照射の可能性が制限される,③ 腫瘍周辺部位の正常組織が照射されることにより放射線障害を考慮しなければならないなどがある。
 最近の放射線療法は各種機器に依存することが多いが,リニアック治療機器を使用して,強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiotherapy),画像誘導放射線放射線治療(IGRT:Image-Guided Radiotherapyが進化している。欧米において既治療としての三次元治療との治療成績比較も行われ,良い結果が報告されている。近年,IT技術の大いなる発展によって,放射線療法の技術は加速度的に発展し,三次元は当然のこととなり,空間軸に時間軸を加えた四次元治療の発展へ向かっている。私共は,この技術を大いに活用し,がん治療に挑んでいく時代をむかえることになる。