宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 4, 78, 2017

シンポジウム 3

「筋骨格系」

6. サイクリング運動モデルによる酸素摂取量と下肢関節反力のシミュレーション

田川 善彦1,山本 直輔1,大本 将之2,松瀬 博夫2,高野 吉朗3,志波 直人2

1久留米大学 医療センター
2久留米大学 リハビリテーション部
3国際医療福祉大学 福岡保健医療学部

Simulation of oxygen uptake and leg joint reaction force in cycling exercise models

Yoshihiko Tagawa1, Naosuke Yamamoto1, Masayuki Omoto2, Hiroo Matsuse2, Yoshio Takano3, Naoto Shiba2

1Medical Center, Kurume University
2Division of Rehabilitation, Kurume University Hospital
3Department of Physical Therapy School of Health Sciences at Fukuoka, International University of Health and Welfare

【背景】 微小重力環境では筋骨格系萎縮対策としてトレーニングが重要となる。運動解析は実験による検証が主だが,運動条件や環境によっては実験が困難な場合がある。一方,今日の進歩したシミュレーションの技術は,構成要素や運動条件のパラメータ変更(可変重力,筋減弱など)を可能とし,筋や関節への負荷,運動の最適化などに対する広範なケーススタディを通して,新たな知見を提供できる。
 【目的】 (1) コンベンションエルゴメータ(CER)およびリカンベントエルゴメータ(RER)に拮抗筋電気刺激法であるハイブリッドトレーニングシステム(HTS)を併用したHTS + CER(HCER)およびHTS + RER(HRER)サイクリング運動モデルの構築,(2) 1 g下での酸素摂取量特性・膝関節反力特性のシミュレーションと実験結果との比較・検証によるモデルの妥当性評価,(3) 0 gの場合も含めたケーススタディから特性の予測と事前評価,(4) 所望する運動条件を実現する最適化と受け入れ可能なトレーニング条件の提示,を目的とする。
 【方法】 HCER・HRERを模擬するために,運動モデルの関節角速度から拮抗動作を判断し,拮抗筋活動を導入する。また0 gにおいて,所望の酸素摂取量と膝関節反力を実現するサイクリング条件を最適化により算出する。さらに運動時の代謝エネルギー低減も考慮する。
 【結果・考察】 1 gでの随意CER(VCER)を用いた機械的負荷と酸素摂取量の関係(回転速度は一定,以下同様)は線形特性を示し,回転速度と酸素摂取量の関係(機械的負荷は一定)は曲線的な非線形特性を示した。また機械的負荷と膝関節反力の最大値の関係は線形特性を示した。ただし膝関節反力の実験がTKA高齢者(術後約1.5年経過)であることを考慮し,モデルでは筋減弱を想定した。膝関節にHTSを想定したHCERでの機械的負荷と酸素摂取量の関係は,VCERにある増加幅を加えた状態を維持する線形特性を示した。何れの場合もシミュレーション結果と実験値はよく一致した。より広いサイクリング条件下での1 g・0 g VCERシミュレーションにおいて,機械的負荷と酸素摂取量の関係,機械的負荷と下肢関節(足・膝・股の各関節)反力最大値の関係は各々線形となり,0 gでより大きな値となった。0 gでは1 gと比べ,ペダル踏込期の前方作用力が増加し,最下点近傍では下方作用力が減じた。この前方作用力の増加が酸素摂取量を増大させたと考えられる。HCERでは主動筋・拮抗筋の同時収縮により,何れの値も増加した。VRER・HRERも同様な傾向を示した。関節反力は骨負荷の指標であり,骨負荷は骨密度と密接に関連するため,関節反力最大値の予測は重要である。最適サイクリング条件は,HTSの同時収縮による機械的負荷の半減とペダル回転速度の減少,さらに運動の代謝エネルギー低減が酸素摂取量の所望値の減少をもたらした。
 【結論】 1 gにおけるVCER・HCERのシミュレーション結果と実験結果の比較・検証より,運動モデルの妥当性が確認された。運動強度の指標である酸素摂取量はHTSにより容易に制御できた。RERモデルの構成要素はCERと同じであり,CERモデルの妥当性から,VRER・HRERの酸素摂取量・下肢関節反力の結果も意味がある。0 g最適サイクリング条件から,HTSがペダルの回転速度と機械的負荷を減少させ,受け入れ可能なトレーニング条件を得るのに効果的方法であることを示した。