宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 4, 73, 2017

シンポジウム 1

「栄養」

1. 臨床栄養における最近の話題

田中 芳明

久留米大学病院医療安全管理部

Current topic in clinical nutrition

Yoshiaki Tanaka

Division of Medical Safety Management, Kurume University Hospital

高齢者は元来,生理的予備能が低下し種々のストレスに対する脆弱性も亢進しており,食思不振に起因する喫食量の減少から低栄養や脱水症に容易に陥りやすい。加えて一旦罹患すると,疾病による炎症や様々な検査,治療に伴う侵襲に暴露され,体蛋白量(徐脂肪量)の減少が加速し,咀嚼機能や嚥下機能の低下,免疫力の低下も相まって誤嚥性肺炎の発症リスクは高くなる。平成27年の人口動態統計による死因別死亡数では,肺炎は第3位,また適切な栄養管理を要する慢性腎臓病(CKD)の存在で発症リスクが高くなるとされる心疾患や脳卒中はそれぞれ2位,4位と,高齢者における栄養学的リスクは大きいといえる。そこで,入院に伴う安静臥床や加齢,疾患の存在が,体組成に及ぼす影響を175名の外来,入院患者を対象に検討を行った結果,長期入院や骨折などに伴う安静臥床,加齢,ならびに肺炎や循環器疾患の存在は,四肢筋量の減少を加速し,サルコペニアに起因する転倒の発症リスク,すなわち自立を妨げる要因となることが判明した。厚生労働省は食事摂取基準策定検討会報告書の中で,高齢者のたんぱく質必要量に関しては若年成人と差がないことを報告しており,フレイルティのリスクの高い低栄養状態の高齢者においては,特に栄養療法は重要と考えらえる。
 今回,たんぱく合成促進に有用なアミノ酸(分岐鎖アミノ酸;BCAA,アルギニン,グルタミン,オルニチン)や最近注目されているビタミンDの有用性についても言及したいと考えている。