宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 3, 49-59, 2017

調査報告

短距離路線を運航する中小航空会社を対象とした機内救急対応に関する質問票調査

�燗Y　一典，五味　秀穂

航空医学研究センター

Questionnaire Survey for Japanese Small Air Carriers Flying Short-haul Routes with Regard to In-flight Medical Emergency

Kazunori Takazoe, Hideho Gomi

Japan Aeromedical Research Center

ABSTRACT
　Background:The content of an emergency medical kit carried onboard is stipulated in the Circular Notice by Director-General of Japan Civil Aviation Bureau and has not been re-evaluated since 2000.　The information on what medications in the kit have been used has not been elucidated when it comes to small airlines flying short-haul routes, although there are various reports from major long-haul international airlines.
　Purpose:To investigate on medical emergency events, particularly focusing on the use of medications, onboard small airlines.
　Method:We prepared a questionnaire form on medical emergency events in which doctors participated and made assessment including medication use during the 10 years between 2006 and 2015.　It was sent to the 15 airlines which operate aircrafts with 60 passenger seats or more, excluding Japan Airlines and All Nippon Airways, and collected for analysis.
　Results:Thirteen airlines responded with data and the results between 2010 and 2015 were used for analysis.　In addition to the cases where doctors participated, cases using medication that the passengers carried with them and cases where AED was used or CPR was carried out were included.　Totally 100 cases were analysed.　The incidence rate among total flight number was 0.005%, and there were no particular age segments prone to medical emergency.　Loss of consciousness （17.5%） and impairment of consciousness （17.5%）, both of which being the top cause, gastrointestinal symptoms （13.6%）, convulsion （11.7%） and discomfort （7.8%） were the top five causes of the medical emergency.　Treatment included oxygen administration for 45 cases （45.0%） being most frequent.　The use of medication or injection accounted for 14 cases （14.0%）, with drip infusion for 6 cases.　There were no cases where oral medications required to be carried onboard by the regulation were used.　Although there were two cases with drip infusion before takeoff （i.e. ground turn back）, there were no cases of medication use during flight onboard the aircraft whose flight time was less than 1 hour.　Only 6 among the 13 airlines （46.2%） used medications.　There were 10 cases （10.0%） where passengers used the medication they had with them, which accounted for 41.7% of the total medication use.　There were 10 AED uses and 3 CPRs performed.　There were 2 offloads, 2 ground turn backs and 1 flight diversion.
　Conclusion:Even during short distance routes, medical emergency can occur which requires medications and AED or CPR.　It should be discussed on whether distinction should be made with regard to the medication content in the emergency medical kit between small airlines and major international airlines.

（Received:18 May, 2017　Accepted:9 September, 2017）

Key words:small airlines, short-haul routes, medical emergency, emergency medical kit, medication

はじめに
　民間航空機の乗客数は世界で年間27億5千万人と推算されており^10），機上で体調をくずした乗客への対応として，我が国では航空法により，「本邦航空運送業者が運航する航空機であって客席数が60を超えるものには，救急の用に供する医薬品及び医療用具を装備すること」と定められている。さらに，2000年1月28日付の国土交通省航空局長通達「救急の用に供する医薬品及び医療用具について」（空事第11号，空航第62号）において，機内装備が必須の医薬品と任意の医薬品が定められている^7）（Table 1）。医学は常に進歩し，新しいタイプの医薬品が登場している。そして以前には標準的に使用されていた医薬品が使われなくなっていたり廃止されたりといった実状がある。このような中で，機内搭載を義務付けられている医薬品は，妥当であろうか。この問いかけは，現代医学に適合した医薬品が搭載されているかということと共に搭載医薬品が機内で発生する救急イベントに必要か否か，という意味も含んでいる。機内でどのような症状や病態が多く発生しているかについては報告により異なっており，失神が多いとする報告^2,10,11）がある一方，消化器症状が最多であるという論文^1,4）があり，その結果使用する医薬品の使用頻度も異なるであろう。我が国の大手航空会社では，蓄積したデータを用いて解析が行われて報告^5,6,8,9）され，その中には同社の国際線のみならず国内線における機内救急イベントも含まれているものがある。従って短距離路線における機内救急イベントの発生状況，対処状況についても大手航空会社からの情報は得ることができる。しかしながら機内搭載医薬品の内容を検討するに当たっては，大手のみならず中小航空会社の機内救急イベントの発生状況と医薬品の使用状況を把握することも不可欠である。短距離路線を中心とした中小航空会社における機内救急に関する報告は現在までに見られず，その詳細は明らかではない。そこで我々は，大手航空会社以外の60席以上の客席を有する中小航空会社に協力を求め，機内救急イベントに対して特に医薬品の使用状況に焦点をあて，質問票調査を行なった。

方法
　「機内救急医療に関する質問票」と題する，2006年から2015年の10年間で医薬品の使用を含めて医師の判断を必要とした機内救急イベントに関する質問票を作成し，日本航空と全日本空輸以外で，客席数60席以上を有する旅客機を保有する航空会社15社に回答を依頼した。質問票の内容は，以下に示すとおりである。調査期間は2016年5月11日より6月10日とした。

　機内救急医療に関する質問票
　　1.　2006年から2015年の10年間で医師の判断を必要とした機内救急イベントはありましたか。
　　　　　はい　　いいえ
　　2.　各年の貴社の総便数をお答えください
　　3.　1.で「はい」の場合
　　 　①　各年の件数をお答えください
　　 　②　機内救急イベント各々につき以下お答えください
　　　　1.　発生年
　　　　2.　その便の飛行時間
　　　　3.　症状あるいは疾患名
　　　　4.　症例年齢層
　　　　5.　対処法（複数回答可）
　　　　　　a.　経過観察
　　　　　　b.　医薬品投与（あれば品名記入）
　　　　　　c.　酸素投与
　　　　　　d.　その他処置等（あれば具体的に記入）
　　　　6.　対処後の転帰につき以下お答えください
　　　　　　a.　回復した　　b.　軽快した
　　　　　　c.　回復及び軽快はしなかったがそのまま目的地へ飛行を継続した
　　　　　　d.　回復しないため目的地を変更した

結果
　依頼した15社全社から回答は得られ，同15社すべてにおいて機内救急イベントは発生していた。その一方，1社からは詳細な情報の記録がないとの回答があり，さらに別の1社からはグループの親会社にデータを提出している，との回答で当センターへの提供はなかった。よって13社から得られた回答を用いて評価することとした。（回収率86.7%）。しかしながら同13社においても発生年を過去にさかのぼるほど，「記録が存在しない」または「就航していない」，といった事実が判明し十分なデータが得られないことから，2010年から2015年までの調査結果を使用した。なお，年間の飛行便数については，調査により回答が得られなかった会社が数社あり，参考値である。また，2010年以降に途中で新たに参入した会社も含めている。
　質問票は医師の判断を必要とした機内救急イベントとしたが，回答には，医師以外が対応したと考えられる事例が多々あったことから，再度問い合わせたところ，看護師，消防士あるいは医学生が対応したという場合があったことが判明したが，明らかでない事例も認められた。そして当然ながら医師の対応でなくとも自動体外除細動器（AED）の使用や心肺蘇生（CPR）の実施といった重症例の記載もあった。AEDの使用例には，医薬品も使用されている事例もあり，それら全体を把握するため，医師が対応していないあるいは不明な場合でも，医薬品の使用またはCPR実施あるいはAED使用があれば，分析に含めた。なお，重症事例ではさらに目的地が変更された場合もあるが，目的地が変更されていても，医師対応の有無が不明の症例及び医薬品の使用そしてCPRあるいはAED使用も記載がない事例は，上記定義より解析には含んでいない。
　Table 2に医師が対応した事例を中心とした機内救急イベントの内訳をまとめた。分析に用いた2010年から2015年までの期間のデータが得られた範囲での総飛行便数は1,839,337便，前述の定義に基づく機内救急イベント発生回数は100回で，総飛行便数におけるイベント発生回数から計算されるイベント発生率は0.005%であった（Table 2）。なお，Table 2には記載していないが，上記100例中医師が対応した事例は85例（85.0%）であった。イベントが発生した当該便飛行時間は30分区切りで分類した。飛行時間は，最長で4.5時間で， 1.5時間以上2時間未満の便が最多であった（Table 2，Fig. 1）。また，飛行時間が1時間以内の便においても，離陸後3件のイベントが確認された。いずれも医薬品の使用はなく，心肺停止（CPR施行30歳台），脳梗塞の疑いで心肺停止（AED使用60歳台），痙攣（経過観察のみ乳児）といった事例であった。離陸開始の定位置までの地上走行中に引き返し降機した（ground turn back, GTB）事例が2例（意識消失AED使用50歳台，心筋梗塞の疑いで心肺停止80歳台）あった。なお，Fig. 1には含めていないが地上走行開始前に降機した（offload）事例が2例（痙攣及び意識消失　年齢不詳，パニック障害　年齢不詳）あった。年齢層は多岐に渡り，10歳未満，20歳台から60歳台の各年齢層で類似した発生件数があった（Table 2，Fig. 2）。発症時の症状又は疾患としては，一症例で複数の症状が認められる場合を含め，意識消失（17.5%），意識低下（17.5%）が並んで最も多く，消化器症状（13.6%），痙攣（11.7%），気分不快（7.8%）と続き，以上で上位5位を占めた（Fig. 3）。なお，これらカテゴリーについては，報告により症状の記載の仕方がまちまちであり，また疾患として診断されない場合が多く症状が主体であるため，著者が妥当と考えられる用語に再分類したものである。よって医学書でみられる分類にはなっておらず， また症状と疾患が混在している。また，後述するAED使用例やCPR施行例について，心肺停止と記載されていないものがほとんどであり，その直前の症状と考えられる表現や他の表現（「意識がない」あるいは「意識が落ちている」という意味の種々の表現や「呼吸停止」が使用されている）が用いられているが，できるだけ元の記載に忠実にそれぞれのカテゴリーに入れた。
　対処方法の内訳は以下の通りである。医薬品投与を含む治療を一切行なわず経過観察のみ行なった事例は16例（16.0%）であった（対処方法の回答は，複数回答としてはいるが「経過観察」に関しては矛盾が生じるためその単独回答のみを数えた）。機内搭載医薬品/点滴の使用状況は，各年0-4回で（Table 2），機内搭載医薬品を使用した航空会社は13社中6社（46.2%）のみであった。内服薬使用例は5例（トラベルミン2例，セデス1例，バファリン2例），注射薬8例（ボスミン1例，ホリゾン1例，生理食塩液1例，ラクテックG 2例，機内搭載点滴薬は判明しているが当該事例への使用点滴製剤名不詳3例）そして外用薬1例（リンデロン）である（Table 3）。機内搭載が義務付けられている内服薬（抗ヒスタミン剤，冠血管拡張剤，血圧降下剤）（Table 1）の使用は皆無であった。飛行時間から見た場合，上述のGTB 2例では点滴が使用されたが，飛行時間が1時間未満の機内では飛行中の機内搭載医薬品の使用は皆無であった（Table 4）。一方，機内搭載医薬品ではなく，乗客が持病等に対して携帯していた医薬品で対処された事例が10例あり（Table 2，Table 5），医薬品使用全体の41.7%（24例中10例）を占めた。酸素投与は種々の症状に対して使用され，最も多く半数近い45例（45.0%）に実施された。その他処置は24例（24.0%）に実施され，医学的対処を目的とした種々の対応（バッグ呼吸，タオルを口にはさむ，飴を提供する，ジュースを飲ませる，湿布を貼る，保温，頭部冷却，水分補給等）とともに，AED使用例あるいはCPR実施例が13例認められた（Table 2）。AED使用例は13社中7社（53.8%），同一社で複数回の使用例があるため，使用回数としては10例であった。CPRのみ施行例は13社中3社（23.1%）であった（Table 6）。なお，AEDは準備したが使用しなかった，という事例が1例あり，AED使用例からは除外した。
　転帰に関しては，93.0%が目的地まで飛んでおり（回復，軽快，あるいは回復及び軽快はしなかったがそのまま目的地へ飛行を継続， の3つのカテゴリーの合計），offloadまたはGTBは4例（各2例），飛行中の目的地変更は1例であった（Table 2）。機内搭載医薬品使用事例において見てみると，GTB 2例（点滴実施例であり，AED使用例でもある）と，記載がなく転帰が不詳である1例が目的地を変更した計3例以外は目的地まで飛行している（Table 3）。持参薬で対処した事例は，全例が目的地まで飛行している（Table 5）。AED使用例のうち2例は離陸前に乗客を降ろし，1例は目的地が変更された（Table 6）。前述のように，目的地が変更されていても，医師が対応したかが不明の症例かつ医薬品の使用そしてCPRあるいはAED使用も記載がない事例は，上述した定義より解析には含んでおらず，このような形での目的地の変更事例は上記1例とは別に3例あった。（意識消失30歳台，意識低下2歳，無熱性痙攣1歳）。

Fig. 1　The Number of Medical Emergencies and Flight Time

Fig. 2　Age Distribution of Medical Emergencies

Fig. 3　Symptom or Condition at Onset

考案
　長距離路線を中心とした大手航空会社における機内救急イベントに関しては，現在までに種々の報告がなされているが，国内線のみあるいは短距離航路のみを路線とする中小航空会社に限定した機内救急イベントに関する調査は，検索した範囲で現在までおこなわれておらず，本稿が初めての報告である。今回，機内搭載を義務付けられている医薬品の内容が適切であるかどうかを検討するため，その使用状況に関して質問票調査を行なった。そのため医薬品使用ということを前提としたため医師の対応した機内救急イベントを念頭に，また航空会社にあまり負担にならないように配慮して，質問票を作成し回答を依頼したという背景がある。よって，現在までに報告されているような機内救急イベント全体を網羅したものではない。よってその定義上，イベントの発生率，対象事例の年齢層あるいは医師の対応率といったいくつかの点で他の報告と比較することはできない。しかしながら，医師が対応した事例を中心とし，またAEDやCPR事例も含んでいることから，重要な事例については拾い上げられていると判断している。そしていくつかの知見が得られたものと考えている。
　それは以下の点に要約される。すなわち，短距離路線においても　1. 機内救急イベントは起こる，2. 医薬品使用を要する事例がある，3. AEDやCPRを要する事例がある，と，いうことである。飛行時間1.5時間から2時間の間に最も頻度が高く（Fig. 1），これは単にこの時間帯のフライトが最も多いということを示しているだけかもしれないが，いずれにしてもこのような時間帯でもイベントは起こる，ということに留意したい。また，イベント事例の年齢層であるが，記録されていない事例が1/4以上あり，また乗客全体の年齢層が明らかではないため，結論は導きだせないが，少なくともイベントを起こしやすい年齢層は認められなかった（Fig. 2）。発症時の症状又は疾患としては，意識消失及び意識低下が並んで最多であり，消化器症状，痙攣，気分不快が上位5位を占めた（Fig. 3）。宮島^8）らは，1993年から1997年度までの全日本空輸（ANA）における機内救急患者について作成されたメディカルレポートを検討し，機内で医療関係者の援助依頼が行われた時の症状として，国内線では意識障害，痙攣，気分不快，腹痛・背部痛，胸痛・胸部不快の順であったと報告している。沼田ら^9）は2001年度から2006年度の期間の傷病人発生記録を検討し，日本航空インターナショナル（JALI）及びANAの国内線において，傷病の種類の上位は意識障害，気分不快そして呼吸困難であったと報告している。DeJohnら^2）は米国の5つの国内線における機内救急インシデントについて検討し，日本における国内線の飛行時間とは異なると考えられるため必ずしも同列には論じられないが，血管迷走神経性失神が最も頻度が高かったと報告している。いずれも意識障害の頻度が高いということに関して今回の検討結果と一致している。しかしながらデータの多い国際線機上での状況を見ると必ずしも一致しない。宮島ら^8）は，1993年から1997年度において意識障害，腹痛・背部痛，下痢・嘔吐，胸痛・胸部不快，呼吸困難，の順で多くみられた，と報告し，沼田ら^9）は，2001年度から2006年度の期間で意識障害，気分不快，呼吸困難の順であることを，桑原ら^6）は，2009年4月から2012年3月までの期間で，一過性意識低下，呼吸困難，転倒外傷の順位を報告している。Petersonら^10）は5つの国際線及び国内線を扱う航空会社における調査から，失神ないし前失神状態（37.4%），呼吸器症状（12.1%），嘔気・嘔吐（9.5%）との頻度を報告している。飯田ら^5）は2012年4月から2015年3月までの3年間ANAグループの国際線国内線におけるメディカルレポートを集計し，症状は意識障害（43%）が最も多く，気分不快（11%），痙攣発作（10%），呼吸困難（7%）の順であると報告している。一方，Dowdall^4）は，英国航空で2000年1月から9月までの調査において，胃腸疾患が1/4強で最多であり，2位の心臓疾患以下1割弱であったと報告，Baltsezak^1）は，あるアジアの大手国際線で，消化器症状（下痢，嘔吐，腹痛）が35.6%で最多で，2位は血管迷走神経性失神（14.6%）と報告し，その結果多用される医薬品はメトクロプラミド，ブスコパン，あるいはファモチジンといった消化器疾患治療薬であったと報告している。
　対処方法として酸素投与が約半数に使用され，さらに種々の対応（バッグ呼吸，タオルを口にはさむ，飴を提供する，ジュースを飲ませる，湿布を貼る，保温，頭部冷却，水分補給等）がとられている。限られた設備しかない空間で，できる限りの対処がなされていると思われる。
　医薬品の使用については，機内搭載医薬品の使用は少数であったが，その中でルート確保のためと考えられる点滴製剤の使用が最も多く，6例あった。過去の報告においても，国際線国内線両者で，宮島ら^8），沼田ら^9），Petersonら^10），飯田ら^5）が点滴製剤の使用頻度の高いことを報告し，桑原ら^6）も国際線で，同様の結果を指摘している。本検討において搭載が義務付けられているその他の医薬品の使用状況は，注射薬が2例（ボスミン，ホリゾン）であった。すなわち全く使用されていない注射薬物品があることが判明した。さらに機内搭載が義務付けられた内服薬については使用例はなかった。沼田ら^9）によると国内線における使用医薬品として，点滴製剤以外では，ブドウ糖注射液，スコポラミン注射液，ジアゼパム注射液，ペンタゾシン注射液，エピネフリン注射液，内服薬としてはニトログリセリンがあげられている。今回の我々の検討との違いについては，どの程度の飛行時間の便の中で使用されたか，などの検討が必要であろう。沼田ら^9）の報告から長距離路線をみると，国内線と同様の医薬品が使用されているが，本検討で実際に機内で使用されていた，点滴製剤，ボスミン及びホリゾンに注目すると，点滴製剤については， 国際線での発症者数2611例中180例（6.9%）に使用されたのに対し，国内線では1,612例中23例（1.4%）に使用，また注射製剤として，ジアゼパムは国際線36例（1.4%），国内線14例（0.9%），エピネフリンは国際線15例（0.6%），国内線9例（0.6%），に使用されたという結果であった。それら以外の注射薬についてはブドウ糖液については国際線93例（3.6%），国内線56例（3.5%），スコポラミンは国際線59例（2.3%），国内線3例（0.2%），ペンタゾシンは国際線35例（1.3%），国内線10例（0.6%），内服薬のニトログリセリンについては国際線22例（0.8%），国内線7例（0.4%）と報告されている。これをみると国際線における使用頻度の方が国内線より多いか同等である。少なくとも国内線での使用頻度が国際線より高い医薬品はなく，国際線の場合，目的地までの距離があることかつ緊急着陸が容易ではないことがその要因であるのかもしれない。また本検討では機内搭載医薬品を使用した航空会社は46.2%であり，6年間で使用経験のない会社が半数以上であることを示している。飛行時間から見た場合，上述のGTB 2例では点滴が使用されたが，飛行時間が1時間未満の機内では飛行中の機内搭載医薬品の使用は皆無であった，ということも留意すべき点と思われる。以上より，長距離路線便と中小航空会社の短距離路線便において，機内搭載医薬品の内容を同様とすべきかについては，発生頻度が高くなくても重大な結果を引き起こす可能性のある疾患についての考慮は必要と考えられるが，検討の余地があると思われる。
　なお，イベント発生時，搭載医薬品ではなく，乗客自身が持病その他で携帯していたものを使用する，という事例もみられた。あくまでも本人が使用するということが原則であると思われるが，今回の検討では医薬品使用全体の41.7%を占めた。Qureshiら^11）は，ある大手国際線航空会社における6か月間の機内救急の分析において，持病に関連した症状が65%，新規症状が28%，外傷が7%であったとし，機内で持病とは別の症状がでることがむしろ少なかったことを報告している。また，Petersonら^10）は持参薬の使用例とともに，他の乗客が持っていた医薬品を使用した場合があることを報告している。本検討でも1例がそれに該当した。持参薬の携帯は機内救急の軽減という意味では重要な事実であると思われる。
　AEDの使用は今回の調査で10件であった。Petersonら^10）によると，AEDを準備した137例中通電例は5例としており，実際の通電が実施されなかった例が大多数であることが報告されている。本検討において，AEDは準備したが使用されなかったという報告が一例あったが，AED使用と記載された10例の中にもAEDを用意したのみ，という事例がふくまれている可能性は否定できない。しかしながらいずれにしても，AEDは医薬品と共に重要な医療器具と考えられる。しかもAED使用事例には離陸前に使用された2例が含まれており，またAED使用事例ではないが別の2例（痙攣及び意識消失　年齢不詳，パニック障害　年齢不詳）はoffloadしており，機内イベントは乗客が搭乗した時点から発生しうるということを再認識させられる事例である。救急イベントに際しては，目的地を変更すべきかどうかが問題となることがあるが，本検討では，目的地を変更した便は，定義上から除外した3例を含めた4例であった。（AEDを使用後に目的地を変更した1例（20歳台，飛行時間2.5時間），意識消失1例（30歳台，飛行時間1時間），意識低下1例（2歳，飛行時間1.5時間），無熱性痙攣1例（1歳，飛行時間2時間）。変更された詳細な経緯については不明であるが，短距離路線でも起きる可能性があることを示している。一方で， AED使用例が10例あるにもかかわらず，目的地を変更するという判断がなされなかった例が9例あるという事実からは，飛行時間自体が短く，緊急着陸するに値する医学上の利益が享受されない，と判断されたことがその理由と推測される。
　最後に，本検討の限界について考察する。回収した回答から機内イベントを検討するにあたり，どのように分類するかについては，DeJohnら^2）がデータ採集方法の仕方の違いや機内イベントのカテゴリーの分類法の違いにより，症状ないし疾患カテゴリーの頻度における差異が生ずる可能性があることを指摘している通り，機内で診断がついているわけではないため迷った事例も多く，完璧な分類にはなっていない。したがって今回の質問票調査を過去の報告と比較した際にはその点を考慮し，傾向をつかむに留めたい。そして質問票調査の回答についても，全体として記載漏れがあり記録が不十分な場合があること，救急イベントの医学的症状の報告書への記載方法が一定していないこと，があげられる。医療従事者でない客室乗務員が，機内で通常の業務の最中に起きる予期せぬ状況に対応し，またその記録を行なうわけであるのである程度やむを得ないものと思われる。しかしながら，まとまった情報として分析を行なう際には障壁であり，例えばでき得る範囲での記載方法の統一化とともに会社間で機内救急イベント記録用紙を統一するなど改善の余地は残されている。Delauneら^3），Sandら^12）も，航空会社により機内救急の記録に大きな差異のあることを指摘し，航空医学における疫学研究データの質を向上させるため，より進んだ標準化が望ましいとしている。我が国においても今回の調査を出発点として，中小航空会社における機内救急の状況をより正確に判断するための材料を集めることができる環境を今後さらに整えていく必要があるであろう。

まとめ
　短距離路線を飛ぶ中小航空会社においても，1. 機内救急イベントは起こる，2. 医薬品使用を要する事例がある，3. AEDやCPRを要する事例がある，という事実が明らかとなった。しかしながら，6年間という調査期間内で，機内搭載が義務付けられた医薬品が使用されなかった航空会社が半数以上ある，そして機内搭載が義務付けられた内服薬の使用が皆無である，機内搭載が義務づけられた注射薬でも全く使用されていない物品がある，そして飛行時間から見た場合，GTB（すなわち離陸前）2例ではAED使用とともに点滴が使用されたが，飛行時間が1時間未満の機内では飛行中の機内搭載医薬品の使用は皆無であったといった特徴があった。機内搭載医薬品の内容については，長距離路線との差別化を検討する余地があると思われた。
　また，機内救急イベントをより的確に把握し分析するために，機内救急イベントの記録方法の統一化，標準化が必要であると考えられた。

　本内容の一部は2016年10月15日，愛知医科大学で開催された第62回日本宇宙航空環境医学会大会シンポジウムで発表した。

文献

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