宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 2, 27-29, 2017

短報

脳ドック受診者に占める飛行機頭痛

由比 文顕

福岡和白病院脳神経外科

Airplane Headache Consulting Brain Dock

Fumiaki Yuhi

Department of Neurosurgery, Fukuoka-Wajiro Hospital

ABSTRACT
 The author interviewed for the presence or absence of airplane headache when performing brain dock in the Fukuoka Wajiro medical periodic health check up clinic. Brain dock examinee from August 29, 2015 to November 7, 2015 was the subject. 424 examinee were divided to airplane headache(AH) group and non-airplane headache (non-AH) group. AH group of people were 16 and non-AH group were 408. Two groups were compared with respect to headache, shoulder stiffness, sinusitis, intracranial cystic lesions and cervical lesions. 【result】Those that had complained of a headache were observed 50.0% in AH group and 20.1% in non-AH group. Sinusitis on MRI were detected 50.0% in AH group and 29.4% in non-AH group. Intracranial cystic lesions on MRI were detected 25.0% in AH group and 3.7% in non-AH group. Breakdown of these cystic lesions were cyst of septi pellucidi and arachnoid cyst in AH group and these cysts and Rathke’s cleft cyst in non-AH group. Cervical lesions on X-ray were spondylosis and disc herniation. These were detected 18.8% in AH group and 44.1% in non-AH group. 【conclusion】Relevance of headache and sinusitis and airplane headache was shown.

(Received:19 June, 2017 Accepted:24 December, 2017)

Key words:airplane headache, brain dock, sinusitis

I. はじめに
 最近飛行機搭乗に伴う頭痛が知られるようになり飛行機頭痛(airplane headache)として定義されている7)。国際頭痛分類第3版β版によればホメオスターシス障害による頭痛の中で低酸素血症あるいは高炭酸ガス血症による頭痛に分類されている。しかし脳ドック診療においては飛行機頭痛の訴えは少ない。著者は福岡和白病院の関連施設である福岡和白総合健診クリニックにおいて脳ドックを行う際に飛行機頭痛について問診する機会を得たので報告する。

II. 対象および方法
 対象は2015年8月29日より2015年11月7日まで福岡和白総合健診クリニックで脳ドックを受けた424例。日常生活に於ける自覚症状を受診者が自らチェックシートに記入した後にMRI・MRA・頚椎X線単純撮影(二方向)を行った。脳ドックの結果を説明する際に著者が飛行機頭痛の有無を問診した。複数回飛行機に搭乗し2回以上頭痛を経験した場合を飛行機頭痛有りとした。脳ドック前に記入したチェックシートの項目からは「頭痛がある。」「肩こりがある。」の二つを選んだ。次いで頭部MRI・MRAより副鼻腔陰影と嚢胞性病変の二項目を,頚椎X線単純撮影より頚椎病変を選んだ。MRAでは全例動脈狭窄や血管奇形を認めなかったため除外した。全424例を飛行機頭痛群と非飛行機頭痛群に分け,これら五つの項目の有無について比較した。

III. 結果
 飛行機頭痛群は16例(3.8%),非飛行機頭痛群は408例(96.2%)であった。平均年齢は飛行機頭痛群で50.2±9.1歳(男性49.5±6.7歳,女性50.9±10.9歳),非飛行機頭痛群で52.5±9.7歳(男性52.7±10.3歳,女52.2±9.0歳)。
 日常生活において頭痛を訴えていたのは飛行機頭痛群16例中8例(50.0%)であった。これに対し非飛行機頭痛群では408例中82例(20.1%)であった。
 日常生活において肩こりを訴えていたのは飛行機頭痛群16例中8例(50.0%)であった。これに対し非飛行機頭痛群では408例中195例(47.8%)で飛行機頭痛群と同様であった。
 MRIで副鼻腔陰影を認めたのは飛行機頭痛群16例中(50.0%)であった。これに対し非飛行機頭痛群で副鼻腔陰影を認めたのは408例中121例(29.4%)であった。
 MRIで嚢胞性病変を認めたのは飛行機頭痛群16例中4例(25.0%)でその内訳は透明中隔嚢胞3例,くも膜嚢胞1例であった。これに対し非飛行機頭痛群で嚢胞性病変を認めたのは408例中15例(3.7%)でその内訳は透明中隔嚢胞11例,くも膜嚢胞2例,ラトケ嚢胞1例であった。
 頸椎X線単純撮影で認めた頚椎病変は変形性頚椎症と頚椎椎間板ヘルニアであった。飛行機頭痛群で頚椎病変を認めたのは飛行機頭痛群16例中3例(18.8%)に,非飛行機頭痛群で頚椎病変を認めたのは408例中180例(44.1%)であった。頚椎病変は飛行機頭痛群より非飛行機頭痛群で多かった。
 飛行機頭痛群16例をTable 1に示す。
 代表例を提示する。
 Case 1
 73歳女性。頭痛の既往なし。副鼻腔炎を自覚したことはなく耳鼻咽喉科を受診したこともない。飛行機に乗るたび着陸時に頭痛が出現するが飛行機搭乗はそういうものと思っていた。脳ドック受診。頭部MRIでは篩骨洞,蝶形骨洞,上顎洞はほぼ閉塞しているものの頭蓋内に異常所見は認めない。慢性副鼻腔炎と思われ耳鼻咽喉科受診を勧めた。耳鼻咽喉科にて加療したところ飛行機頭痛はほぼ訴えなくなった。
 なお今回の対象例ではないが飛行機頭痛発現後6時間に頭部MRIを撮影する機会を得た。このような症例は稀と思われたのでCase 17として提示する。
 Case 17
 60歳男性。飛行機頭痛の経験なし。副鼻腔炎を自覚したことはなく耳鼻咽喉科受診歴もない。2017年1月16日朝脳ドック受診のため空路を利用した。空港に近づき下降態勢に入ったところでガガンと音がし機体が揺れた。素人には体が一瞬浮き機体が落下したように感じられた。同時に頭がズキンズキンと痛くなった。さらに同様のことが二度続きそのたびに頭痛は増強した。8時25分着陸。着陸後15分程度で頭痛は急に軽減した。福岡和白総合健診クリニック受診時には頭痛はなかった。14時13分よりMRIを撮影した。MRIでは右上顎洞に陰影を認めるが頭蓋内に異常所見は認めない。

Table 1. 飛行機頭痛群16例の内訳
Case 頭痛 肩こり 副鼻腔炎 嚢胞性病変 頚椎病変
1  73F
2  36M +(透明中隔嚢胞)
3  42M +(透明中隔嚢胞)
4  33F
5  53M
6  51M
7  49F
8  49M
9  54M
10  58F +(巨大くも膜嚢胞)
11  53M
12  54F
13  43F
14  50F
15  49F
16  58M +(透明中隔嚢胞)
+は有り,−は無し

IV. 考察
 2004年のAtkinson1)の報告以後飛行機頭痛の報告は散見されるようになった。2007年Mainardi7)は飛行機頭痛8例をまとめ飛行機頭痛の診断基準を提唱している。しかし飛行機搭乗時の飛行機頭痛出現率に関しての報告は少ない。Cherian4)は頭痛クリニック受診者1,208例中2例(0.16%)に飛行機頭痛がみられるとした。Bui3)は航空会社のfacebookを利用し飛行機搭乗者の頭痛の有無を調べたところ飛行機頭痛出現率は8.3%だったという。今回脳ドック受診者424例に対し飛行機頭痛の有無を調べたところ16例3.8%であった。ただし非飛行機頭痛群408例の20.1%に頭痛の既往があった。一般に片頭痛は健康人の8.4%を占めるといわれているが脳ドックには頭痛のある者がより集中する傾向にある。飛行機頭痛の頻度は実際には2%程度であると考えられる。
 2007年のMainardi7)の報告では全例男性であった。一般に男性は女性より前頭洞が大きく前頭洞に気圧性外傷が生じやすいために飛行機頭痛は男性に多いという説もある。今回の検討では男236例中4例(1.7%),女188例中4例(2.1%)と性差はない。
 好発年齢はDomitz5)によれば20歳〜40歳である。Mainardi7)が診断基準を提唱した後Ipekdal6)は小児例を報告した。今回の検討では男36歳〜58歳,女33歳〜73歳であった。
 飛行機頭痛になりやすい素因として頭痛,肩こり,副鼻腔炎,頭蓋内嚢胞性病変,頚椎病変を考え検討した。その結果頭痛,副鼻腔炎,頭蓋内嚢胞性病変の三つが考えられた。従来より頭痛,副鼻腔炎が多いとされる。
 まず頭痛であるが飛行機頭痛16例のうち頭痛単独4例,頭痛・副鼻腔炎併存4例合わせて8例(50.0%)を占めていた。Berilgen2)らの報告では緊張型頭痛あるいは片頭痛の既往のある者が多いという。次いで副鼻腔炎の観点からみると副鼻腔炎単独4例,副鼻腔炎・頭痛併存4例であった。ここで示す副鼻腔炎とはMRIで副鼻腔に何らかの陰影を認めるものの自覚症状はなく耳鼻咽喉科受診歴のない者を指し,無症候性副鼻腔炎である。非飛行機頭痛群においても29.4%がすべて無症候性副鼻腔炎であった。
 先述のように飛行機頭痛は気圧性外傷と言われている。飛行機が降下を開始すると副鼻腔と鼻腔を結ぶ自然排泄孔にかかる気圧が上昇する。この時何らかの理由で副鼻腔内の気圧が変わらない場合には副鼻腔に陰圧がかかる。副鼻腔の陰圧が持続すると副鼻腔粘膜に浮腫や出血,transudationが生じ副鼻腔内の三叉神経終末が刺激され頭痛が生じる。Cherian4)によれば篩骨洞内の陰圧で篩骨細胞の粘膜にtentionがかかり篩骨動脈の侵害受容器が刺激され頭痛が生じるという。またcase 17であるが高度降下時に通常より急激に気圧が上昇したと仮定すると副鼻腔が寸時には気圧変化に対応できず副鼻腔に陰圧が生じて持続し飛行機頭痛が生じたとも考えられる。
 最後に頭蓋内嚢胞性病変である。飛行機頭痛16例中透明中隔嚢胞3例,くも膜嚢胞1例であった。4例中3例は頭痛あるいは副鼻腔炎を有していた。透明中隔嚢胞は従来より頭痛を除き無症状である。

V. まとめ
 福岡和白総合健診クリニック内の脳ドックを受診した424例のうち飛行機頭痛の経験のあるものは16例3.8%であった。
 頭痛および無症候性副鼻腔炎と飛行機頭痛の関連性が示された。

VI. 謝辞
 脳ドック受診者に飛行機頭痛の有無を問診する機会を与えてくれた福岡和白総合診療クリニックの職員皆様に深く感謝いたします。

文献

1) Atkinson, V. and Lee, L.:An unusual case of an airplane headache. Headache, 44, 438-439, 2004.
2) Berilgen, M.S. and Mungen, B.:Headache associated with airplane travel:report of six cases. Cephalalgia, 26(6), 707-711, 2006.
3) Bui, S.B.D., Petersen, T., Poulsen, J.N. and Gazerani, P.:Headaches attributed to airplane travel:A Danish survey. J. Headache Pain, 17(33), 2016.
4) Cherian, A., Mathew, M., Iype, T., Sandsleep, P., Jabeen, A. and Ayyappan, K.:Headache associated with airplane travel:A rare entity. Neurology India, 61(2), 164-166, 2013.
5) Domitrz, I.:Airplane headache;a further case report of a young man. J. Headache Pain, 11(6), 531-532, 2010.
6) Ipekdal, H.I., Karadas, O., Erdem, G. and Vurucus, Ulas U.H.:Airplane headache in pediatric age group.:report of three cases. J. Headache Pain, 11(6), 533-534, 2010.
7) Mainardi, F., Lisotto, C., Palestini, C., Sarchielli, P., Maggioni, F. and Zanchin, G.:Headache attributed to airplane travel “airplane headache”:first Italian case. J. Headache Pain, 8, 196-199, 2007.

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