宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 150, 2016

ポスター発表

「宇宙生物」

11. 重粒子線照射による線虫の運動機能の変化

山崎 晃1,2,鈴木 芳代2,舟山 知夫2,小林 泰彦2,坂下 哲哉2,秋山(張) 秋梅1

1京都大学 大学院 理学研究科
2量子科学技術研究開発機構 放射線生物応用研究部

宇宙環境では重粒子線をはじめ放射線に曝露される。線虫(C. elegans)は,神経・筋・消化管・生殖腺を備えているため,放射線の組織別影響を調べる上で有用である。線虫では,0.1 kGyのX線照射で生殖腺における細胞死が観られ,卵はほぼ孵化しない(Oshii, N. et al., 1990)。一方成虫では,0.5 kGyのガンマ線全身照射で全身運動が一時的に低下する(Suzuki, M. et al., 2009) が,有意な寿命短縮が観られるのは1.0 kGy以上の照射からである (Johnson, T.E. et al., 1988)。したがって,低下した運動機能が回復するか個体死に向かうのかが線量によって決まると考えられる。そこで本研究では全身運動を指標としてガンマ線及び炭素線に対する応答を経時的に調べた。
 ガンマ線および炭素線照射直後の線虫の全身運動は,線量依存的に低下し,6 kGyでは完全に停止した。照射1日後の全身運動は,1 kGyでは照射前のレベルまで回復したが,3 kGyでは回復はするものの照射前のレベルまでは回復しなかった。一方,6 kGyでは運動の回復は観られなかった。以上の結果から,線虫はガンマ線・炭素線どちらに対しても運動機能の低下から回復するメカニズムを備えていることが示唆された。