宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 145, 2016

ポスター発表

「宇宙生物」

6. 小脳培養切片を用いた正常脳の発達に及ぼす重粒子線の影響研究について

吉田 由香里1,舟山 知夫2,中野 隆史1,高橋 昭久1

1群馬大・重粒子線医学研究センター
2QST・高崎量子応用研究所

【背景】 人類が地球を飛び出し,大気圏を越えた先には,高いエネルギーの宇宙放射線に曝される。宇宙空間は,生物学的効果の高い重粒子線を含めて,様々な種類の低線量・低線量率放射線環境である。長期間の宇宙滞在で,宇宙放射線は,宇宙飛行士の中枢神経系に対して深刻で永続的な損傷を引き起こし,認知能力に悪影響を与える可能性が警鐘されている。人類が安全に宇宙に進出し,活動するためには,これらの影響を正しく評価することは重要である。
 【目的】 宇宙放射線による人体影響の解明のため,正常脳の発達に及ぼす重粒子線の影響を調べる。
 【方法】 生後10日目のWistarラット正常脳から作製した小脳培養切片(〜600 μm厚)を用いて,高崎量子応用研究所TIARAにて炭素イオン線(18.3 MeV/u, 108 keV/μm) 1 Gy〜10 Gyを照射した。
 【結果】 その結果,小脳の構成細胞である外顆粒細胞の遊走が阻害されることを明らかにした。他の構成細胞について調べた結果,重粒子線照射によりベルクマングリア細胞の形態が変化していた。
 【考察】 重粒子線照射は小児の小脳においてグリア細胞を変性させ,小脳皮質の発達を阻害する可能性が示唆された。