宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 138, 2016

ポスター発表

「宇宙航空」

1. 旅行者血栓症対策からみた民間航空機シートピッチと飛行時間の検討

篠原 一彦

東京工科大学 医療保健学部

Investigation on the seat pitch and flight time of the commercial flight for prevention of pulmonary embolism

Kazuhiko Shinohara

School of Health Sciences, Tokyo University of Technology

【目的】 肺血栓塞栓症対策は外科系診療時の必須案件として普及したが,旅行者血栓症については一般医家の理解は必ずしも多くない。日本人の利用が想定される民間航空機のエコノミークラスについてシートピッチ(座席間隔)と飛行時間等を調査した。
 【対象と方法】 航空関連Webページ等より,日本人が頻用する格安航空会社(Low Cost Carrier:LCC)と大手航空会社(Full Service Carrier:FSC)のシートピッチ・座席配列(シート・コンフィギュレーション)を調査するとともに,長距離国際線飛行時間の変遷を調査した。
 【結果】 日系FSCのジェット機では,国内線・国際線含め31インチ以上のシートピッチが確保されていた。外国系FSCでも30インチ未満は1社のみであった。一方LCCでは, 日系・外国系双方において30インチ未満のシートピッチが大半で,4〜9時間前後の日本発アジア・豪州便でも使用されていた。中東系航空会社のエアバスA380でもエコノミークラスのシートピッチは32インチ前後と,西側先進国FSCの他機種と同等であった。一方,エコノミークラスのシートコンフィギュレーションは,LCCはすべて通路から窓際まで3列配置であった。しかしFSCの中型機以上の機材でも通路から窓側までの3列配列は一般的で,2通路を有するワイドボディ機の中央部座席も,4座席配置が一般的であった。これは長時間飛行時の連続着座のリスクに加え,人工股関節移植後の患者にとっては座席移動時の脱臼リスクなども懸念された。米国東海岸から日本までの飛行における連続飛行時間の推移を調査すると,サンフランシスコ・ホノルル経由のDC-7C時代は最大8時間50分(パンアメリカン1便・ニューヨーク-サンフランシスコ間・1959年),DC-8就航後は最大7時間55分(日本航空1便・ホノルル-東京間・1969年)であった。ボーイング747-400などの就航により米国東海岸からの東京までの直航が可能になると13時間40分となった。(日本航空1便・ニューヨーク-東京間・2002年)。2016年現在,ボーイング777によるニューヨーク・ワシントン・ヒューストンから東京までの直航便の所要時間は, それぞれ13時間55分,14時間,14時間5分である。ちなみに2016年9月時点における世界3大長大路線の所要時間はドバイ-パナマシティ17時間35分,ダラス・フォートワース-シドニー16時間55分,ヨハネスブルグ-アトランタ16時間40分である。邦人が日常的に利用する米国東海岸からの帰国便の飛行時間も,これらとひけをとらない長時間飛行である。
 【考察】 LCCの普及によりシートピッチの狭い国際線旅客機が増加した。また航空機の性能・信頼性向上により,従来は途中給油を要した米国東海岸へも13時間以上の直航便が日常化し,FSCにおける旅客の連続着座時間も増加した。生活習慣病増加と高齢化社会を迎え,1,2時間の手術でも肺血栓塞栓症対策では必須となっている。旅行者血栓症対策においても航空運航と客室内環境も考慮した予防と患者指導が一般実地医家にも必須である。その際には航空関連Webサイトなどの活用も有用である。