宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 137, 2016

一般演題

「放射線・宇宙環境」

2. 宇宙実験による化学進化の検証─たんぽぽ計画の現状とポストたんぽぽの検討─

小林 憲正1,三田 肇2,癸生川 陽子1,藪田 ひかる3,奥平 恭子4,中川 和道5,別所 義隆6,今井 栄一7,佐々木 聡8,矢野 創9,橋本 博文9,横堀 伸一10,山岸 明彦10,たんぽぽRG

1横浜国大
2福岡工大
3大阪大
4会津大
5神戸大
6理研Spring-8
7長岡技科大
8東京工科大
9JAXA/ISAS
10東京薬大

1950年代以来,生命の起源を探る化学進化実験が盛んに行われるようになった。初期には原始地球を想定した室内実験がほとんどであったが,1970年代頃から,地球外有機物の寄与が注目されるとともに,宇宙環境(星間,原始太陽系星雲,太陽系天体など)を模した室内実験が行われるようになった。地球外有機物の生成,変成,地球への供給といった一連の過程を考える上で,実際の宇宙環境を実験室内で模擬するには限界がある。そこで,実際の宇宙環境を利用した宇宙実験が考案,実施されてきた。
 たんぽぽ計画は,国際宇宙ステーション(ISS)きぼう曝露部(JEM-EF)を利用し,超低密度エアロゲルを用いた宇宙塵等の捕集や,有機物・微生物の曝露を行う複合アストロバイオロジー実験である。捕集したダスト中に,地球を脱出した微生物や,アミノ酸などの生体有機物を含む宇宙塵を探すことにより,微生物の惑星間移動や宇宙塵による生体有機物の供給の可能性などを検証することを目的としている。2015年5月に簡易取付装置(ExHAM)に捕集パネル・曝露パネルを取り付けたものを与圧部からエアロックを通して曝露部に取り出し,ロボットアームによりJEM-EFのハンドレールに取り付け,実験が開始された。
 実験開始後から約1年後にExHAM1号機は与圧部に回収され, NASAにより地上に回収された後,宇宙研に移送される予定である。そこで初期分析・試料分配の後詳細分析が行われ,さらに種々の機関において詳細分析が開始される予定である。また,試料分析のデータアーカイブも構築し,公表していくことを計画している。
 たんぽぽ計画では最大3年間の曝露が予定されており,2018年までの宇宙実験が予定されているが,その終了後をにらみ,あらたなアストロバイオロジー宇宙実験の議論も始まっている。とりわけ,たんぽぽ計画には含まれていなかった有機物生成に関する宇宙実験を中心に検討が行われており,宇宙から惑星に入射する宇宙線と太陽紫外線が同時に照射されることにより,惑星大気中でどのような有機物が生成するか,あるいはオゾン層生成前の原始海洋表層で生体有機物の化学進化が起こりうるのかなどのテーマが候補にあげられている。また,たんぽぽ計画はまったく電力を使用しない実験であったが,欧米では電力を使用する宇宙曝露実験も検討されている。ポストたんぽぽでは,サンプル回収に加えて,電力供給とデータ送受信による機能向上によって実現できる,より高次のアストロバイオロジー実験の検討も行う予定である。