宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 136, 2016

一般演題

「放射線・宇宙環境」

1. 微小重力環境下での宇宙放射線の生物影響研究:新たな展開への重要な視点

谷田貝 文夫1,2,本間 正充2,堂前 直3,石岡 憲昭1,4,5

1JAXA・宇宙研
2理研・CSRS
3国衛研・変異遺伝部
4総研大・物理科学
5鹿児島大・医歯学

宇宙空間では放射線のバックグラウンドが地上に比べて〜100倍も高くなり,その中には高エネルギー重粒子放射線も含まれる。ヒトの健康に及ぼす影響を調べるには,宇宙放射線のエネルギーや線質だけでなく生物応答についても考慮する必要がある。ここでは,生物応答について考察する。放射線の生物影響を調べる研究では微小重力環境が考慮されることがあるが,微小重力による生物影響を調べる場合には放射線効果は無視されることが多い。実際の生物影響では,放射線と微小重力の両者は独立の因子として働くとは限らない。そこで,両者を一緒に考慮したいという意図から相互作用という言葉がよく用いられる。従来の研究では明確になっていない“両者の相互作用”に関して次のような3つのモードを提案したい。1) 宇宙放射線は起爆剤でメインは微小重力影響 2) 宇宙放射線によるDNA損傷の運命に微小重力が関与 3)代謝過程で起こるDNA損傷の運命に両者が関与。このような相互作用の存在を明らかにするには,どのような研究の展開が考えられるのかについても述べたい。