宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 135, 2016

一般演題

「航空」

6. 成田国際空港クリニック2015年度旅客患者の分析

赤沼 雅彦,松浦 直子

日本医科大学 成田国際空港クリニック

Analysis of the Traveler Patient in Narita International Airport Clinic 2015

Masahiko Akanuma, Naoko Matsuura

Nippon Medical School Narita International Airport Clinic

【目的】 日本医科大学成田国際空港クリニックは空港内診療所として365日体制で診療し, 通常診療は9時から17時 (日・火・水・金・土)または18時(月・木曜日)まで,救急診療を17時または18時から翌朝9時まで実施。今回当クリニックにおける2015年度旅客患者について分析し,今後の旅行時の疾病予防の資とする。
 【背景及び方法】 成田国際空港では2015年4月にLCCのための第3ターミナルが竣工し,国際線旅客は外国人旅客が増加し,日本人国際線旅客は減少傾向にある。また,国内線旅客は著増している。総受診者数12,519名中旅客は2,963名(23.7%)であり,これを対象とした。2014年度に比較し総数・旅客とも僅かに減少していた。また,外国人患者は1,071名(8.6%)で前年度より僅かに減少しているが,比率は前年度と同等で以前より増加傾向であった。新規患者が40.5%でやや減少,初診患者は36.8%で同等,再診患者比率はやや増加傾向であった。旅客を出発・到着にわけて外国人比率や疾患構成を到着旅客は地域別に分析した。
 【結果】 旅客を出発・到着で分けて比較するとそれぞれ1,009人と1,939人で到着の患者が多く,この外国人比率は出発が26.3%で到着が17.9%と出発の外国人比率が高かった。到着地域別では東アジアが42.9%,北米が24.2%と高く,オセアニア太平洋州は8.7%と最も外国人比率が低かった。また,患者の疾患についての検討では総受診者の疾患と同様に出発では呼吸器疾患が最も多く30.7%,次いでその他であった。3番目は全体では循環器・消化器・感染症がほぼ同数であったが,出発旅客では外傷・消化器・感染症の順であった。到着旅客では感染症が最も多くが36.4%・その他・呼吸器・外傷の順であった。到着の地域別の検討では東アジアとオセアニア太平洋州と中東アフリカは感染症が約40%で最も多く,次いでその他が約20%でそれ以降は多少異なっていた。 他アジアと中南米では感染症(感染性胃腸炎が主)が50%でその他と呼吸器疾患が18%前後であった。北米とヨーロッパは同様傾向で呼吸器疾患がそれぞれ26と28%で次いで,感染症が26と23%さらにその他が20と22%,外傷が13と15%となっていた。国内からの到着旅客では消化器疾患とその他が30%弱で最も多く,次いで呼吸器疾患が20%程度であった。
 【考察】出発で外国人比率が高かったのはチェックインの際にカウンター職員から受診を勧められたり,診断書を求められることがあるためと考えられた。また,到着で東アジアの外国人比率が4割以上と高い理由は日本に在留している方の比率が高いためクリニック受診のハードルが低いためと考えられた。到着旅客で感染症の比率が最も高かったのは感染性胃腸炎が多いためと考えられた。今後経年的変化についても検討してみたい。