宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 133, 2016

一般演題

「航空」

4. 操縦士の聴力と騒音曝露に関する検討

蔵本 浩一郎,西山 潔,菊川 あずさ,辻本 由希子

航空自衛隊 航空医学実験隊

The survey of noise exposure and hearing levels of JASDF pilots

Koichiro Kuramoto, Kiyoshi Nishiyama, Azusa Kikukawa, Yukiko Tsujimoto

Aeromedical Laboratory, Japan Air Self-Defense Force

【背景】 航空自衛隊では任務の特性から,航空機が発生する騒音に日常的に曝露されるため聴力低下の危険性が高い。そのため,整備員等では年一回の聴力検査により,操縦士等については航空身体検査の聴力検査により聴力管理が行われている。整備員等の聴力については,平成25年度に聴力検査結果の調査が行われ,その結果を元に航空自衛隊における聴力管理規則の改定がなされた。しかし,操縦士等の聴力検査結果についての最近の調査報告はない。そこで,操縦士の聴力管理方法の改善に資することを目的として,操縦士の聴力検査結果を分析検討した。
 【方法】 対象は,平成27年度に航空医学実験隊において航空身体検査を受検した操縦士の内,40歳以上で聴覚器疾患等の既往のない者とした。対象者の平均年齢は46.1±4.0歳(平均値±SD)であった。分析は対象者を低下群と正常群の二群に分け比較した。聴力レベルが1,000 Hz 30 dB,4,000 Hz 40 dBのいずれかの値を左右の耳のどちらかでも超えた者を低下群とし,それ以外を正常群とした。
 【結果】 全対象者の内13.0%が低下群と判定された。平均年齢は低下群で46.9±4.6歳,正常群では46.0±3.9歳で,両群に有意な差は認められなかった。次に対象者を主に操縦する機種により分類し,低下群と判定された操縦士の比率を求めたところ,戦闘機操縦士が14.2%,輸送機操縦士が14.4%,練習機操縦士は10.0%,多用途機の操縦士が5.3%,回転翼機操縦士が10.5%であった。母集団における低下群の比率と比べると,練習機,多用途機,回転翼機操縦士で低下群の比率が有意に低かった。他方,総飛行時間について検討したところ, 上位15%にあたる6,000時間以上の操縦士(上位群)では,18.5%が低下群に分類され,下位15%にあたる2,800時間未満の操縦士(下位群)では8.8%が低下群に分類された。これらの値を母集団における低下群の比率と比べると,上位群では有意に高く,下位群では有意に低かった。また,この結果に対する加齢による影響を検討するために,上位群及び下位群内でそれぞれ低下群と正常群の平均年齢を比較したところ,上位群では低下群48.7±3.3歳,正常群48.8±3.4歳で,下位群では低下群44.4±4.7歳,正常群44.5±3.0歳であり,上位群,下位群ともに低下群と正常群の間で平均年齢に有意な差は認められなかった。
 【結語】 騒音レベルが比較的低い機種(多用途機, 練習機,回転翼機)の操縦士は,聴力低下の発生率が低かった。また,飛行時間が多いほど聴力低下の発生率が高く,飛行時間が少ないほど発生率は低かったが,加齢の影響は認められなかった。