宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 131, 2016

一般演題

「航空」

2. 加速度訓練の停止時減速率(offset rate)の低下は回転性めまいを緩和する

丸山 聡1,金澤 富美子1,溝端 裕亮1,高澤 千智1,鳥畑 厚志1,藤田 真敬2

1航空自衛隊航空医学実験隊
2防衛医科大学校防衛医学研究センター異常環境衛生研究部門

Slow offset rate relieves the vertigo in centrifugal training

Satoshi Maruyama1, Fumiko Kanazawa1, Yusuke Mizohata1, Chisato Takazawa1, Atsushi Torihata1, Masanori Fujita2

1Aeromedical Laboratory, Japan Air Self-Defense Force
2Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute, National Defense Medical College

【はじめに】 加速度訓練時に効率で発生する回転性めまい(ダイブ感)は,吐き気症状を伴うことがあり,訓練の妨げとなることがある。このダイブ感の低減方法として,訓練装置停止時に,減速率を低下させる方法と機首上げ動作を行う方法が知られている。今回は,停止時減速率を低下させることで,ダイブ感と吐き気の発生率がどのように変化するかを調査し,対策としての有効性を検討する。
 【方法】 対象被訓練者は,平成27年7月から28年5月の間に,加速度訓練を受けた飛行準備課程学生とした。飛行準備課程学生に対する加速度訓練は基本訓練と呼ばれ,I及びII型と呼ばれる連続した2つの型からなっている。このII型訓練における最後の停止時減速率(オフセットレート)を1.0 G/secに設定(従来型)したものと,3 G以降0.1 G/secと緩やかになるよう設定(改良型)したものを用意し,訓練期別に割り付けた。訓練に伴い作成される搭乗記録より,「ダイブ感」及び「吐き気」に関する自覚症状並びにシミュレータ酔い尺度の評価方法として広く普及しているSimulator Sickness Questionnaire(SSQ)により評価した。
 【結果】 従来型では95.2%がダイブ感を訴えたが,改良型では77.4%であった。ダイブ感の主観的強さの平均は,従来型で2.5改良型で1.7となり有意差が認められた(p=0.001)。SSQの平均スコアを比較すると従来型と改良型で,気持ち悪さ;39.1 vs 25.4(p=0.02),目の疲れ;24.3 vs 20.0(p=0.46),ふらつき感;46.5 vs 31.1(p=0.19)となり,吐き気にのみ有意差が認められた。
 【まとめ】 訓練停止時の減速率低下は,ダイブ感を感じる率の減少及び吐き気の低下をきたし,訓練阻害要因の一つである回転性めまい対策として有効と考える。