宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 128, 2016

一般演題

「加速度・他」

4. 鼓膜温測定によるメニエール病の評価,および気象変化との関連性

北島 尚治1,2,北島 明美1,3,北島 清治1

1北島耳鼻咽喉科医院
2東京医科大学耳鼻咽喉科
3聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科

Evaluation of Meniere’s disease using tympanic membrane temperature and relevance between tympanic membrane temperature and climatic factor

Naoharu Kitajima1,2, Akemi Sugita-Kitajima1,3, Seiji Kitajima1

1Kitajima ENT Clinic
2Department of Otolaryngology, Tokyo Medical University
3Department of Otolaryngology, St. Marianna University School of Medicine

【はじめに】 メニエール病(Meniere’s disease;MD)は,その病態が内リンパ水腫であること以外病因や発症機序が不明の難治性疾患である。一般的に鼓膜温 (Tympanic membrane temperature;TMT) はヒトの深部体温の指標とされているが,これまでMD患者でTMTに左右差があり,左右差が広がると発作を生じることが報告されている。今回我々はMD患者のTMTの左右差とめまい発作との間に興味深い結果を得たので報告する。
 【対象と方法】 症例はMD患者11症例である。MDの診断には厚生省メニエール病研究班による診断基準(1976)を用いた。そして健常ボランティア8名をコントロール群とした。初診時,患者にTMT記録用紙を渡し,2週間から4週間記載させた。日内変動や体位による影響を避けるため,測定は早朝7時に座位にて行わせ,MD群・コントロール群共に右耳→左耳の順で記録させた。めまい発作は20分以上持続する回転性めまいを生じた場合を「めまい発作あり」として記載させた。さらに今回は気象因子がTMTに与える影響を調査するため気象データ(気圧,気温,湿度)と比較検討した。気象データは気象庁がネット公開している数値を用いた。我々は鼓膜温の評価に下記のごとくpercent TMT asymmetry (%TMTA)を定義した。
 %TMTA(MD群)=100(Ta-Tu)/(Ta+Tu).(Ta:患側TMT, Tu:健側TMT)
 %TMTA(コントロール群)=100(Tr-Tl)/(Tr+Tl) or 100(Tl-Tr)/(Tl+Tr). (Tr:右耳TMT, Tl:左耳TMT)
 【結果】 正常例の平均%TMTAは−0.07±0.28(右-左)および0.07±0.28(左-右)であった。メニエール病患者の平均%TMTAは0.11±0.59であった。発作期の平均%TMTAは0.19±0.62と非発作期(0.10±0.58)と比べ高値で,正常例と比べ有意に高い傾向があった。めまい発作期,間欠期ともに%TMTAと気象因子の値とは相関性がなかったが,めまい発作期にある症例は間欠期にある症例と比して発症日の平均湿度が有意に高い傾向にあった。
 【考察】 今回の研究ではメニエール発作と気圧・気温との相関性を認めず,湿度の上昇に伴って有意に発作が生じる傾向にあった。これは多湿な環境は患者へのストレスや不快感を与え,発汗が抑制されることにより内リンパ水腫が助長されるためと思われた。また気圧と湿度が有意な負の相関性を示すことから,潜在的な気圧変化による影響の可能性も考えられた。一般的にTMTは脳血流,主に外頸動脈の温度を表すと言われる。外頸動脈はまた内リンパ嚢を還流しており,これより我々はTMTの変動は内リンパ嚢の血流量変化を,%TMTAの変化は内リンパ嚢の虚血・再灌流を反映し,虚血の結果内リンパ水腫が引き起こされると推測した。鼓膜温測定はメニエール病の評価に役立つとともに,非侵襲的な検査であるため患者が症状を自己管理するのにも有用と思われた。