宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 125, 2016

一般演題

「加速度・他」

1. 閉鎖環境ストレス下におけるストレス対処力の指標としてのSOC(Sense of Coherence)連続測定の試み

笹原 信一朗1,大井 雄一1,平井 康仁1,大滝 優2,堀 大介3,斎藤 環1,松崎 一葉1,4

1筑波大学 医学医療系
2筑波大学大学院 人間総合科学研究科
3金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科
4筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構

SOC (Sense of Coherence) as an indicator of stress coping power under a confined environmental stress attempt of continuous measurement

Shin-Ichiro Sasahara1, Yuichi Oi1, Yasuhito Hirai1, Yu Ohtaki2, Daisuke Hori3, Tamaki Saito1, Ichiyo Matsuzaki1,4

1Faculty of medicine, University of Tsukuba
2Graduate school of comprehensive human science, University of Tsukuba
3Graduate school of medical science, University of Kanazawa
4Internarional institute for integrative sleep medicine, University of Tsukuba

【目的】 近年では,国際宇宙ステーションで長期滞在を行う日本人宇宙飛行士が増加している。この長期滞在での課題に,同じ部屋に長時間にわたり同じ人たちと過ごしていると,「息がつまる」などと表現されるように閉鎖環境における心理社会的なストレス要因である。しかしながら,人間は新たな環境に適応する力も持っている。この適応力の主要な要因のひとつにストレス対処力が考えられているが,閉鎖環境ストレス下におけるストレス対処力の変化を測定した研究はまだない。そこで,閉鎖環境ストレス下でのストレス対処力に変化があるか検証する。
 【方法】 JAXA(日本宇宙航空研究開発機構)実施の長期閉鎖環境(宇宙居住環境模擬)におけるストレス蓄積評価に関する研究におけるサンプルシェアで実施。2016年2月に8人の被験者(成人男性)が,筑波宇宙センターに設置されている「閉鎖環境適応訓練設備」内に13泊14日滞在した。閉鎖環境滞在中には,国際宇宙ステーションで宇宙飛行士が受けるものを模擬したストレスや,宇宙飛行士選抜試験を参考にして設定する課題を被験者に負荷した。この閉鎖実験において,閉鎖前2回(閉鎖7日前,閉鎖1日前),閉鎖中4回(閉鎖1日目,閉鎖8日目,閉鎖11日目,閉鎖14日目), 閉鎖後2回(閉鎖後1日目,閉鎖後7日目)の合計8ポイントで,ストレス対処力の指標として自記式質問票であるSOC29項目7件法での測定を行った。筑波大学医の倫理委員会承認(第1022号)を受けた。また,開示すべき利益相反事項はない。
 【結果】 閉鎖実験を通しての前後比較で,SOC29総得点の有意な上昇(平均値±標準偏差:閉鎖7日前143.9±14.3点→ 160.9±18.5点。効果量:0.70)が検出された。
 【考察】 閉鎖環境ストレスがかかるなか,SOC得点は有意な上昇を示したが,一般にSOC得点は成年になると通常の日常生活では変化せず安定するとされてきている。一方で,いくつかのランダム化比較対象研究では,健康生成論に基づく介入,健康行動に関する介入,身体活動に関する介入,マインドフルネスに基づく介入がSOC総得点の上昇を示している。以上より,今回の閉鎖環境ストレスが,何らかの介入となりSOC総得点の上昇を誘導した可能性が示唆された。
 【謝辞】 本研究はJSPS科研費15H05935の助成を受けた。