宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 122, 2016

一般演題

「重力・水浸」

4. 軌道上環境がプロバイオティクス(LcS菌)の生残性に及ぼす影響の評価

古川 聡1,大島 博1,酒井 隆史2,茂木 康浩2

1宇宙航空研究開発機構・有人宇宙技術部門
2株式会社ヤクルト本社・中央研究所

宇宙航空研究開発機構と株式会社ヤクルト本社は,国際宇宙ステーション(ISS)でのプロバイオティクス(ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株:LcS菌)の継続摂取が宇宙飛行士の免疫機能・腸内環境に及ぼす影響を検証する軌道上実験を計画している。同実験の実施に先立ち,摂取用の試験サンプル(凍結乾燥したLcS菌を含むカプセル)をISS内で保管し,宇宙放射線等の環境因子がLcS菌に及ぼす影響を調べた。温度ロガーおよび宇宙放射線測定用の積算線量計を同梱した試験サンプルをドラゴン補給船運用8号機に搭載して打ち上げ,ISS内で約1か月間保管した後,地上に戻して各種解析に供した。ISS保管中の温度は20℃〜24.5℃の範囲内で安定していた。当該期間中に受けた線量当量率は0.52 mSv/dayであり,過去の報告事例と同等であった。また,培養法を用いて試験サンプル中のLcS菌生菌数測定を行い,地上にて22℃で保管していた対照品と同等にLcS菌の生菌が維持されていることを確認した。以上の結果から, 1か月間のISS (宇宙環境)での保管結果を踏まえると,宇宙放射線等の環境因子がLcS菌の生残性に影響を及ぼす可能性は極めて低く,ISS内でも安定的に維持管理できると考えられた。