宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 118, 2016

一般演題

「植物」

2. 地球の陸上植物はなぜ同じ緑なのか

久米 篤

九州大・農学研究院

陸上植物の葉は緑色であり,地球上どの植生帯においてもほぼ同じ分光吸収・反射特性を示す。これは主に光化学系のアンテナ色素複合体を構成するクロロフィルaとbの分光吸収特性に依存しており,植物種によらず非常に一定である。一方,海洋環境では,様々な分光吸収特性を持った生物が生存しており,水中の光環境と関係していることが知られている。そのため,陸上植物の分光特性の均一性は,入射日射の分光特性と関係があることが予想されるが,これまでその関係は明らかではなかった。そこで,陸上植物の葉における日射吸収に及ぼす吸収スペクトルの影響を,エネルギーと光量子の観点から分光日射の実測データと簡単な植物生理学的モデルによって考察した。その結果,大気CO2濃度に対して放射が強すぎる地球の陸上では,直達日射に対して吸収率の低い光合成色素を持ち,色素濃度と細胞構造の組み合わせによる吸収エネルギーの最適化が重要であることが示された。このことは,地球の陸上植物の光合成色素や光合成器官の運動特性・組織構造は,地球の日射・大気CO2濃度環境に高度に最適化されており,これらの条件が異なる環境では,異なった色や形態の光合成生物が進化することを示唆している。また,宇宙船内などの人工光源環境下では,それに応じた光合成生物の利用が適していると考えられる。