宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 107, 2016

シンポジウム 6

「アストロバイオロジー」

1. 地球周回軌道:曝露部宇宙実験「たんぽぽ計画」

山岸 明彦

東京薬科大学 生命科学部

Low Earth Orbit:Space Exposure Experiment “Tanpopo Mission”

Akihiko Yamagishi

School of Life Sciences, Tokyo University of Pharmacy and Life Sciences

高々度での微生物の存在限界の検討と,微生物ならびに生命の起源に関わる有機化合物の宇宙空間での移動の可能性を検討するため,我々は,「日本初のアストロバイオロジー宇宙実験」として,「たんぽぽ:有機物・微生物の宇宙曝露と宇宙塵・微生物の捕集」を実施している。これは,ISS-JEM(国際宇宙ステーション・日本実験棟)曝露部における,微生物,宇宙塵その他の微粒子の捕集実験と,微生物・有機物の宇宙曝露実験である。「たんぽぽ計画」は6つのサブテーマ(ST1-ST6)から構成されている。
 「たんぽぽ計画」では超低密度固体エアロゲルを1年以上の長期間宇宙曝露して,宇宙空間で微粒子を採集する。ST1では,エアロゲルを用いて微生物の採集を試みることから,地球低軌道での地球由来微生物の存在密度の上限を推定する。ST2では地上で培養した微生物を宇宙空間に曝露する事によって,微生物の宇宙環境での生存時間の推定を行う。そこから,地球由来微生物の惑星間移動の可能性を検討する。ST3では宇宙塵に含まれて地球に飛来する有機物が宇宙空間で変成する可能性を検討する。ST4では生命の起源前に有機物が宇宙塵中に含まれて地球に飛来する可能性を検討するため,宇宙塵を捕集して鉱物・有機物分析を行う。ST5では宇宙空間での人工微粒子(デブリ)密度の推定をおこなう。ST6では「たんぽぽ計画」で新規に開発した超低密度エアロゲルの宇宙利用可能性を検証する。
 2015年5,11月より国際宇宙ステーションきぼう曝露部上のExHAM(簡易曝露実験装置)1,2号機両方に「たんぽぽ装置」が搭載され,実験中である。「たんぽぽ装置」は2種類で,その一つは「曝露パネル」。微生物と有機化合物を「曝露パネル」を用いて宇宙曝露している。もう一つは極低密度固体エアロゲルを宇宙空間に曝露した「捕集パネル」で,有機物含有宇宙塵,スペースデブリ,地球起源エアロゾルなどの衝突捕集を行う。「捕集パネル」は,2016年夏期より3年間,毎年地球へ回収される計画である。
 本発表では,たんぽぽ計画について,そのISS上での宇宙実験の進行状況と,第1回目の宇宙での捕集サンプル並びに曝露サンプルの解析に関する準備状況を報告する。