宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 103, 2016

シンポジウム 4

「宇宙放射線を正しく怖がる」

2. 宇宙・航空飛行における放射線防護

保田 浩志

広島大学

Radiological Protection in Space and Aviation

Hiroshi Yasuda

Hiroshima University

航空飛行や有人宇宙活動では,地上とは異なる種類の放射線により比較的高いレベルの被ばくを受ける。おおよその目安として,航空機高度の線量率は地上のおよそ百倍(数μSv/h),国際宇宙ステーション(ISS)での線量率はおよそ千倍(数十μSv/h)になる。その結果,年間に800時間程度乗務する航空機乗務員では年間〜5 mSv,ISSに半年間滞在する宇宙飛行士は〜100 mSvの実効線量を受けると推定される。こうした上空(航空機や宇宙船等)での宇宙放射線による付加的な被ばくは,職業被ばく管理の対象になっている。
 ただし,上記の線量レベルは太陽活動が静穏な場合の推定値である。太陽表面で大規模な爆発(太陽フレア)が生じると,大量のプラズマ粒子が宇宙空間に放出され,稀に地球磁気圏を通過するだけの高いエネルギーの陽子が大量に地球へ飛来することがある。その場合には,短時間に比較的高い線量の被ばくを受ける恐れがある。航空機では,その付加的な線量は多くても数mSvと推定されるが,子供を含む一般の乗客にとっては問題となり得る。ISSでは,船内では〜数十mSvだが,船外活動時には〜数百mSvに達すると推定され,特に水晶体の被ばくが顕著に高くなる点に注意を要する。地球の磁気圏外に出る月や火星等への飛行では,事故や非がん影響のリスクに加えて,その潜在的な放射線被ばくのリスクはさらに高くなる。
 宇宙・航空飛行における健康リスクを可能な限り減らすため,我々のグループでは,新学術領域(太陽地球圏環境予測 “PSTEP”)の一環として,航空機乗務員や宇宙飛行士を宇宙放射線による被ばくから防護するためのプログラムの開発に取り組んでいる。