宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 101, 2016

シンポジウム 3

「Biosphere」

4. バイオスフィア実験の過去・現在・末来

篠原 正典

帝京科学大学

Past, “Now”, and Future of Biosphere Experiments

Masanori Shinohara

Teikyo University of Science

宇宙開発を「有人」で行う場合,「環境制御を伴った生命維持システム(ECLSS)」の開発は必要不可欠である。ISSにおいては6名の宇宙飛行士による生活・活動が恒常的に続けられており,地球への物資の依存は大きく,また今後も様々な改良がなされるにせよ,物理化学的処理によるECLSSシステムは完成し成功を収めているといえる。しかし,地球からより遠方でのより長期間の調査・開発を目指す場合,地球への依存度を減らすため,水・酸素の再生率および食料自給率のさらなる向上が求められ,特に食料自給に関しては植物も系の中に組み込んだ“バイオスフィア”(生物圏)を模したECLSS(以降,バイオスフィア実験)が期待される。ここ数年,火星探査などを想定し,6名の多国籍のクルーによる地上模擬実験が期間(ロシア・Mars500,520日という長期の滞在)や環境(米国・HI-SEAS,ハワイ・マウナロア山頂という火星に類比可能な環境)を模して行われ,成功裏に終わり注目されたが,食料の全てが外部供給であるなどバイオスフィア実験という点では得るものの乏しい実験であった。
 この分野でこれまで画期的な試みとされてきたのは,米国アリゾナで民間主導で行われたBiosphere 2プロジェクト (8名,2年間),NASA・JSCで様々な条件で行われた月・火星生命維持実験プロジェクト(Lunar-Mars Life Support Test Project,4名,3か月など),および日本・六ヶ所村・(財)環境科学技術研究所によって行われたミニ地球プロジェクト(2名,最長1ヶ月)であるが,いずれも約20〜10年前の試みであり,現在はバイオスフィア実験施設としての実験はなされていない。
 本報告では,これら過去の実験の成果,想定外のアウトリーチ(環境教育への貢献,人文科学系分野への波及,科学ジャーナリズム,SF小説など),その実験施設のその後の再利用などに関して幅広く紹介する。加えて,今現在も研究開発が続けられているESAのMELiSSA (Micro-Ecological Life Support System Alternative)のような現在進行形のプロジェクトの概略を紹介し,今後,どのような目的のもとに,どのようなバイオスフィア実験が期待されるかをシンポジストおよび聴衆の皆様と考察したい。