宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 99, 2016

シンポジウム 3

「Biosphere」

2. 模擬実験施設を利用した宇宙居住実験と船外活動実験の可能性について

宮嶋 宏行

国際医療福祉大学

Space Habitation and Extravehicular Activity Experiment Possibilities using Analog Simulation Facility

Hiroyuki Miyajima

International University of Health and Welfare

地球から遠く離れた地点での宇宙滞在や,長期の宇宙滞在では物質を再生利用することが必要である。生物を利用して物質の再生を行う閉鎖生態系生命維持システムの実験では地上模擬実験施設を用いた実証実験が大きな役割を果たしてきた。古くは,1970年代から1980年代にかけてロシアで実験が行われたBIOS 3があり,1990年代には,米国アリゾナ州のバイオスフィア2(Biosphere 2)で2年間の居住実験が行われた。米国の月・火星生命維持実験プロジェクト(Lunar-Mars Life Support Test Project:LMLSTP)や日本の閉鎖型生態系実験施設(Closed Ecology Experiment Facilities:CEEF)も代表的な例である。他方,閉鎖生態系を意識しない実験施設には,カナダのデボン島のホートンマーズ計画(Haughton-Mars Project:HMP),同じくデボン島のフラッシュライン火星北極圏研究基地(Flashline Mars Arctic Research Station:FMARS),米国ユタ州ハンクスビルの火星砂漠研究基地(Mars Desert Research Station:MDRS),ロシアのMARS500,米国ハワイ島のハワイ宇宙探査アナログシミュレーション(Hawaii Space Exploration Analog and Simulation:HI-SEAS)があり,居住実験や船外活動のシミュレーションに主眼が置かれている。また最近,閉鎖居住実験を実施した中国の月宮はBIOS 3を参考に閉鎖生態系を意識している。
 このように模擬実験施設を利用したプロジェクトでは,数回の居住実験で終了する場合が多い中,火星協会のMDRSは10年以上にわたり継続して運用してきた実績を持つ。居住実験や惑星表面探査の模擬施設として毎年10チーム程度の欧米のクルーによって,ライフサイエンス,地質・環境科学,技術開発,天文学などの分野の実験で利用されている。2014年3月には,日本火星協会により結成されたTeam NipponがMDRSの2013-2014年ローテーションに初めて参加した。Team Nipponは6人からなり,MDRS運用の歴史の中で,初めての日本人だけによるクルーである。
 本報告では,Team NipponのMDRSでの居住実験の経験をもとに,2013年から2016年の3年間に各クルーがMDRSで実施した研究課題を概観する。次に,最近の模擬実験施設の特徴に言及しながら,模擬実験施設を利用した宇宙居住実証実験の可能性について考察する。