宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 98, 2016

シンポジウム 3

「Biosphere」

1. 植物生産を中心とした生命維持システム─宇宙での閉鎖生態系と地上での都市域生態系への適用─

北宅 善昭

大阪府立大学 生命環境科学研究科

Life Support Systems with plants─Applications to Space and Terrestrial Urban Areas─

Yoshiaki Kitaya

Graduate School of Life and Environmental Sciences, Osaka Prefecture University

火星への有人ミッションが十数年内に計画されており,人類の火星移住という壮大な構想もある。現在の飛行技術では,火星への往復のみでも約17ヶ月を要する。このように長期間宇宙に滞在する場合,人間の生存に不可欠な食料の生産,空気や水の浄化,物質リサイクルなどを閉鎖環境下で行なう閉鎖生態系生命維持システム(CELSS)が必要となる。CELSSでは基本的に,人間の呼吸により排出されるCO2は植物の光合成で吸収され,その時に発生するO2が呼吸に利用される。また排泄物や植物の非可食部分は,酸化されて水とCO2およびその他の無機物に変換されるので,その酸化に必要なO2の供給および発生するCO2の吸収も植物の光合成が担える。さらにヒトに有害な微量ガスや不快臭気の吸収,除去も植物に依存できる。また飲用水には,栽培植物からの蒸散水を凝縮して用いる。さらに,強度の肉体的・精神的ストレスに曝される宇宙飛行士が,生鮮野菜を摂取し,生きた植物と接触することは, ストレス緩和に有効である。したがってCELSSでは,食料生産機能に加えて,ガス処理,水処理,アメニティ機能などを併せ持つ多機能型植物栽培システムの構築が重要となる。
 これまでの植物を用いた宇宙実験では,開花したものの,種子数や稔性の低下,種子形質の変異が報告されている。種子を食糧とする場合や,種子繁殖の必要性がある場合,生殖過程の異常は重要問題である。ここでは,これらの原因について考察するとともに,宇宙での候補作物として,サツマイモの優位性について説明する。
 最後に,農業を取り入れた都市圏生態系へのCELSS概念の展開について紹介する。系外からの入力物質量,太陽エネルギー以外の入力エネルギー量を最少にできれば,系外への負荷も最少となり,食料生産と同時に環境保全を達成できる物質循環型社会に近づくことができる。