宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 97, 2016

シンポジウム 2

「航空搬送(宇宙航空認定医シンポジウム)」

5. 航空機動衛生隊による民間人患者空輸の実際

宮脇 博基1,山口 大介2,矢嶋 祐一3,辻本 哲也4

1航空機動衛生隊
2航空医学実験隊
3自衛隊岐阜病院
4統合幕僚監部首席後方補給官付衛生班

Aeromedical transport of civil patients by the Aeromedical Evacuation Squadron

Hiroki Miyawaki1, Daisuke Yamaguchi2, Yuichi Yajima3, Tetsuya Tsujimoto4

1Aeromedical Evacuation Squadron
2Aeromedical Laboratory
3Self Defense Forces Gifu Hospital
4Medical, Logistics, Joint Staff

航空機動衛生隊は,自衛隊航空機による重症患者の航空医療搬送において,機上医療を実施する部隊である。東日本大震災に関わる出動以来,災害派遣要請等に基づいて27例の民間人患者の搬送に携わっている。当隊の特徴としては,航空医療搬送用コンテナである機動衛生ユニット(以下, ユニット)を用いた医療を実施していることである。ユニットをC-130H輸送機に搭載することにより,機内を短時間でICUに準じる医療環境に変化させ,ドクターヘリ等の他航空機では困難な症例の搬送も可能としている。過去の搬送症例の内容は,年齢は2か月〜99歳(mean±SD=23.9±5.6歳),うち16歳未満は14例(52%)と, 小児の搬送が半数以上である。全例, 高度な集中治療や手術を目的とする転院搬送であり,IABP,ECMO(V-A,V-V),HFOV等の特殊な医療機器を伴った状態での搬送が23例(85%)と多い。それ故,都道府県等からの要請から部隊出動までの日数は2時間〜11日(mean±SD=3.0±2.8日),うち要請翌日以降の出動は26例(96%)と, 主治医と入念な打合わせを行ってから出動している。航空機動衛生隊の医療チームは,1チームあたり,医師1-2,看護師2-3,管理要員1-2の合計4-7名で出動する。病状に応じて,搬送元病院の主治医,看護師,臨床工学技士等に同乗を頂いている。全症例で無事に搬送を完了しているが,特殊な搬送形態に起因するマイナートラブルも数件経験している。今後の安全な患者空輸のため,トラブル事例についても紹介する。(症例1)2歳男児,特発性肺線維症,HFOV下で埼玉県→岡山県間の空輸。大型医療機器のユニット内の設置レイアウト,漏出酸素ガスの危険性についての事前検証に苦慮。(症例2)2か月男児,気管狭窄症および心室中隔欠損症,宮崎県→兵庫県。医療機器搬送車両の空港立入申請がなされておらず,患児のユニット内搬入が遅延。(症例3)55歳女性,拡張型心筋症,鹿児島県→大阪府。休日のため,悪天候に備えた代替飛行場の確保に難渋。