宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 90, 2016

シンポジウム 1

「動植物の重力応答を探る」

3. 重力屈性の分子メカニズムを探る

森田(寺尾)美代1,2,西村 岳志1,古谷 将彦1,谷口 雅俊1

1名古屋大学大学院 生命農学研究科
2 JST CREST

Molecular mechanism of plant gravitropism

Miyo Terao Morita1,2, Takeshi Nishimura1, Masahiko Furutani2, Masatoshi Taniguchi1

1Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University
2JST CREST

固着生活を営む植物は,環境の変化を鋭敏に察知し,器官形成や成長の制御に反映させる生存戦略を取っている。「屈性」と呼ばれる成長運動は,光,重力,水分,接触などの環境刺激の方向を認識した上で起こる,方向性を持つ成長運動である。重力屈性は,根を水分や栄養分が豊富な地中へ,地上部を光合成や生殖に有利な上方へと各器官を配置する重要な応答である。地球上では重力の方向や大きさはほぼ不変であるので,重力屈性は重力の方向を指標に器官の傾きを認識して応答する植物の姿勢制御運動といえる。
 重力屈性は, 1) 重力感受細胞での重力方向変化の認識(重力受容),2)生化学的信号への変換,3)感受細胞から伸長領域への刺激伝達,4)器官の偏差成長,という一連の反応からなると考えられる。器官の偏差成長には,植物ホルモンであるオーキシンの器官内での偏差的分布の形成が重要であること,それにはオーキシン輸送体の細胞内分布の制御が関与することが示されている。我々はこれまで,重力受容について重力感受細胞に含まれる比重の高い色素体(アミロプラスト)の位置の変化が重力方向を受容する為に重要であり,そのアミロプラストの位置変化には,感受細胞内の最大のオルガネラである液胞の柔軟な構造とアクチン細胞骨格とアミロプラスト間の適切な相互作用制御が必要であることを示してきた。しかし,アミロプラストの位置が感受細胞内でどのような信号に変換され,オーキシンの器官内偏差分布へと繋がるのか,という重力シグナリングの分子機構に関しては知見が乏しい。そこで,我々は重力感受細胞に着目した独自のトランスクリプトーム解析を行い,DLLs (DGE1/LAZY1 Like proteins; DGE1, DGE2, DTL) に着目して解析を行った。その結果,DLLsは重力感受細胞において,アミロプラスト位置情報をオーキシン輸送制御につなげる重力シグナリングの中核に関わる蛋白質ファミリーであることを明らかにした。