宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 89, 2016

シンポジウム 1

「動植物の重力応答を探る」

2. メダカは微小重力環境にどのような影響を受け,適応したのか

茶谷 昌宏1,2,萬徳 晃子2,武山 和弘2,森本 博也2,伊藤 武彦2,谷川 直樹3,久保田 幸治3,鈴木 ひろみ4,内田 智子4,崎村 徹4,谷垣 文章5,白川 正輝5,高野 吉郎6,工藤 明2

1昭和大学 歯学部歯科薬理科学講座
2東京工業大学大学院 生命理工学研究科
3千代田化工建設株式会社 宇宙ソリューションユニット
4日本宇宙フォーラム
5宇宙航空研究開発機構 (JAXA)
6東京医科歯科大学大学院 生体硬組織再生学講座 硬組織構造生物学分野

How are medaka fish affected and adapted to microgravity?

Masahiro Chatani1,2, Akiko Mantoku2, Kazuhiro Takeyama2, Hiroya Morimoto2, Takehiko Itoh2, Naoki Tanigawa3, Koji Kubota3, Hiromi Suzuki4, Satoko Uchida4, Toru Sakimura4, Fumiaki Tanigaki5, Masaki Shirakawa5, Yoshiro Takano6, Akira Kudo2

1Department of Pharmacology, School of Dentistry, Showa University
2Graduate School of Bioscience and Biotechnology, Tokyo Institute of Technology
3Chiyoda Corporation
4Japan Space Forum
5Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA)
6Section of Biostructural Science, Department of Hard Tissue Engineering, Division of Bio-Matrix, Graduate School, Tokyo Medical and Dental University

ウォルフの法則によれば,骨はそれに加わる力に抵抗するのに最も適した構造を発達させる。すなわち,その環境に適応して骨の構造を変化させると考えられる。しかし重力によって発生する力が骨にどのような影響を与えているのかはまだわかっていない。
 我々の研究チームはメダカを国際宇宙ステーションに打ち上げる実験を2回行った。最初の2012年の実験では2ヶ月間の長期飼育実験を行い,2014年の実験では孵化直後のメダカを生きた状態でジェルの中に包埋し8日間観察した。いずれの実験でも骨関連細胞が特異的に光るトランスジェニックメダカラインを用いており,骨と微小重力の関係について解析した。
 2つの実験では,重力の有無によるそれぞれの「行動変化」が見られた。長期飼育では光を一方向から当て,光が当たる向きを背側とする背向反応によってメダカに上下を与えたが,それとは逆に光に腹側を向けて泳ぐもの,またルーピング行動という回転運動を示すものが現れた。これは水中を泳ぐメダカの三半規管に存在する耳石の重さが無くなり,有毛細胞が耳石の傾きを感知出来なくなったことが原因と考えられる。また,短期観察実験ではジェル内に包埋されたメダカのオリエンテーションに変化が見られた。メダカの咽頭歯部を観察するため,メダカの腹側方向が容器底面に向くように包埋したが,地上群では重力の影響のため斜めを向く個体が現れた。それに対し,宇宙群ではほとんどの個体が腹側方向を保っており,重力がジェル内のメダカの姿勢制御に影響していることを示した。
 このように重力の影響が個体の行動パターンに変化を生じさせた系において,遺伝子,細胞,組織レベルでどのような変化がメダカに生じたのかを議論したい。