宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 87, 2016

シンポジウム

「御手洗玄洋先生 追悼シンポジウム」

4. 宇宙と網膜にコイされた御手洗玄洋先生を偲んで

臼井 支朗

理化学研究所・BSI NIJC 特別顧問,豊橋技術科学大学 名誉教授

In memory of Professor Genyo Mitarai who loved Carp in Space Medicine and Retinal Physiology

Shiro Usui, Ph.D.

Special Advisor, RIKEN-BSI NIJC and Emeritus Prof., Toyohashi Univ. of Tech.

学部卒業後,下記の機関でお世話になり本年3月に退官しました。この間,岐阜大学(医)反射研で御手洗先生の網膜生理の集中講義に感銘を受けて以来,宇宙医学,網膜生理のご指導を賜りながら今日まで研究して参りました「視覚を中心とした研究生活の50年」を手短に振り返り,先生を偲びながらお話させて頂きます。基本的には眼球系から網膜,視覚中枢系に至る仕組みの実体を生理工学的視点から解き明かし,その集大成としての数理モデルを京コンピュータ上に記述・統合し,動く数理モデルを介して視覚系を理解することを目指して研究して参りました。以下はその遍歴の概要です。

1966年〜:岐阜大学 (院) 視覚-手動作系解析,御手洗先生の集中講義,感覚系はΔ-Σ変調。
 1970年〜:カリフォルニア大(院)バークレー校(UCB EECS, Bio-Eng)L. Stark教授, F. Werblin教授
 1974年〜:名大・工・電気 UCBで学んだ視覚系の研究を神経情報科学の視点から体系的に探究する研究基盤を確立するべく,連続系シミュレータ,会話型生体信号解析処理システム,低域デジタル微分フィルタなどの開発を進めると共に,御手洗研究室の森滋夫,三宅養三,浅野俊樹,高林彰の各先生方のご指導を仰ぎ,網膜電気生理と網膜電位図 (ERG)の研究を始めた。
 1979年〜:豊橋技科大 提唱する新しい分野:生理工学の確立を目指して研究室を創始し,網膜生理ではHFSP国際共同研究や谷口シンポジウム,御手洗先生ご提案(PI:森滋夫先生)のコイの宇宙実験に必要な小脳脳波計測用プリアンプチップの開発と得られた脳波の解析(電子情報通信学会1996年度猪瀬賞),学習する多層ニューラルネットを用いた網膜・視覚中枢系における色覚の脳内情報表現獲得モデルの研究(最近の人工知能研究で話題の深層学習の先駆けの一つとなった),科学技術振興調整費による「視覚系のニューロインフォマティクス(NI)研究」(NRV:Neuroinformatics Research in VisionプロジェクトPI)などを進めた。
 2002年〜:理研BSIニューロインフォマティクス技術開発チーム 引き続き網膜の生理工学的研究,NI日本ノード (NIJC)やNI国際統合機構(INCF)の立ち上げ,NI基盤プラットフォーム(XooNIps)など関連するデータベースツールの開発を進めた。
 2012年10月〜:豊橋技科大・エレクトロニクス先端融合研究所 色覚に関する網膜電気生理実験とERGの生理工学的研究をベースに,再生網膜における色覚機能再生過程の他覚的モニタリング法に関する研究を進めてきた。
 昨春,コイ網膜の2次元ERG分布の最新の実験データを持ってお見舞いに上がったところ,先生は膝を乗り出され,いつものように目を耀かせて話を聞いてくださった。その一か月後,私たちの師 御手洗玄洋先生はご逝去された。合掌