宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 76, 2016

合同ワークショップ 1 

「宇宙に生きる」

3. モデル閉鎖環境における微生物

一條 知昭

大阪大学 大学院薬学研究科

Microbes in a confined environment

Tomoaki Ichijo

Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Osaka University

宇宙居住環境は微小重力かつ宇宙線に曝露される閉鎖環境であり,生態系は主にヒトと微生物から構成される。生態系の恒常性の維持は機械的なシステムが担い,多くの場合,微生物の果たす役割はこれらのシステムによって置き換えられている。微生物はこのような特殊な環境にも適応し,ヒトとの関係を構築する。しかしながら,宇宙居住環境ではヒトと微生物の関係が地上と比べて大きく変化すると考えられており,微生物学的に安全・安心な生活を保障するためには,宇宙居住空間におけるヒトと微生物の関係を理解し,共存するための基盤的な知見を集積する必要がある。そこで私たちは,2009年度より国際宇宙ステーション「きぼう」船内での継続的な微生物モニタリングを実施するとともに(Ichijo et al. npj microgravity, 2016),高度に管理された宇宙居住のモデルとなる医薬品製造施設において環境微生物を網羅的に解析し,そのMicrobial worldの全体像を明らかにすることを目指している。
 本ワークショップでは継続的に実施している「きぼう」内での微生物モニタリングにより得られた成果,および昨年度より開始した医薬品製造施設における環境微生物の解析について,これまでに得られた結果を紹介する。
 *本研究はJAXA・日本宇宙フォーラムとの共同研究,およびMEXT科研費・新学術領域研究(15H05946)の助成により実施した。