宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 75, 2016

合同ワークショップ 1 

「宇宙に生きる」

2. 内耳前庭系の可塑的変化が引き起こす帰還後deconditioningとその対策

安部 力1,田中 邦彦2,森田 啓之1

1岐阜大学大学院 医学系研究科神経統御学講座生理学分野
2岐阜医療科学大学 保健科学部 放射線技術学科

重力の感知器官である内耳前庭系は,姿勢制御,眼球運動,自律神経調節,筋・骨連携など多くの身体機能に関与している。地球上で生活している限り,これらの機能は 1g環境に適応したものとなっているが,宇宙で生活するためにはこれらの機能は微小重力環境に適応する必要があり,地球への帰還に際しては再度1g環境に適応する必要がある。さいわい,前庭系は可塑性が強く,異なる重力環境に曝露されると前庭系を介する機能を変化させて異なる重力環境に適応することが可能であるが,急激な重力環境の変化の過程で種々の不具合が生じる。宇宙飛行に伴う医学的問題(deconditioning)の多くがこの適応過程および適応障害の結果である可能性があり,その一部には前庭系が関与していることから,前庭系の可塑的変化対策は喫緊の課題である。今回の発表では,帰還後deconditioningのひとつである起立性低血圧に焦点を当て,重力環境変化によって引き起こされる前庭-動脈血圧反射の可塑的変化について話をする予定である。また,これまでの研究結果から見えてきた,起立性低血圧を防ぐための「前庭トレーニング」の必要性について発表を行う予定である。