宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 74, 2016

合同ワークショップ 1 

「宇宙に生きる」

1. “宇宙遊泳”がゼブラフィッシュ骨格筋へおよぼす影響

佐藤 文規1,Choi Minyong1,王 梓1,内田 智子2,谷垣 文章3,小林 純也4,高橋 昭久5,菅野 純夫6,鈴木 穣7,川上 浩一8,瀬原 淳子1

1京都大学 再生医科学研究所
2日本宇宙フォーラム
3宇宙航空研究開発機構
4京都大学 放射線生物研究センター
5群馬大学 重粒子線医学研究センター
6東京大学 医科学研究所
7東京大学 新領域創成科学研究科
8国立遺伝学研究所

The influence of “Spaceswim” on zebrafish skeletal muscle

Fuminori Sato1, Minyong Choi1, Zi Wang1, Satoko Uchida2, Fumiaki Tanigaki3, Junya Kobayashi4, Akihisa Takahashi5, Sumio Sugano6, Yutaka Suzuki7, Koichi Kawakami8, Atsuko Sehara-Fujisawa1

1Institute for Frontier Medical Sciences, Kyoto University
2JSF
3JAXA
4Radiation Biology Center, Kyoto University
5Heavy Ion Medical Center, Gunma University
6The Institute of Medical Science, The University of Tokyo
7Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo
8National Institute of Genetics

長期の宇宙滞在は人体に様々な影響を及ぼすことが知られており,その中でも筋骨格系に及ぼす影響は顕著であり,“骨格筋萎縮”と“骨密度の低下”が引き起こされる。しかし,そのメカニズムには不明な点も残されており,将来宇宙旅行や移住が可能となった際には大きな問題の一つとなることが予想される。また,骨格筋萎縮や骨密度の低下は地上での生活においても引き起こされるものであり,それらとの発症メカニズムにおける相違も大変興味深いものである。
 我々のグループは,長期的かつ安定的な宇宙滞在実験が可能な水棲脊椎動物であるゼブラフィッシュを用い,宇宙滞在における骨格筋萎縮メカニズムの解明を目的とした宇宙滞在実験を実施した。ゼブラフィッシュは胚発生の観察が容易であることから,主に脊椎動物の胚発生におけるモデル生物として利用されている。また,近年のゲノム編集技術の発展にともない逆遺伝学的解析も可能となり利用される研究分野も広まりつつある。
 ゼブラフィッシュ宇宙滞在実験は,国際宇宙ステーションに設置されている水棲生物実験装置を利用し実施され,軌道上2日目,軌道上約1カ月後,さらには初めて成功した地上帰還後のゼブラフィッシュを試料として得ることができた。解析に関しては,次世代シーケンサーによる骨格筋トランスクリプトーム解析を中心に実施している。宇宙滞在による骨格筋萎縮メカニズムの解明には骨格筋萎縮の総合的な理解が必須と考えられることから,骨格筋萎縮を誘導すると考えられる運動抑制および加齢ゼブラフィッシュのトランスクリプトーム解析も実施し比較・検討を行った。また,宇宙放射線の影響を考慮した低線量照射実験も実施したのでその結果に関しても報告する。