宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 2, 23-35, 2016

原著

Wolff-Parkinson-White症候群等，房室頻脈性不整脈の航空医学適性評価及び判定法に関する検討

�燗c　邦夫，立花　正一

防衛医科大学校防衛医学研究センター異常環境衛生研究部門

A Review of Evaluating and Assessing Aeromedical Fitness of Pilots with Wolff-Parkinson-White Syndrome or Atrioventricular Tachyarrhythmias

Kunio Takada, Shoichi Tachibana

Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institutey

ABSTRACT
　In this review, we defined the mechanisms by which macro-reentry circuits in the atrioventricular region evoke paroxysmal supraventricular tachycardia as “atrioventricular tachyarrhythmias （AVT）” and hemodynamic aberrance, based on AVT as “hemodynamic phenomena （HDP）”.　HDP is an aeromedical concern among pilots who become incapacitated during flight.　The assessment of aeromedical fitness, hereafter referred to as “fitness”, of the pilot should be performed with caution in order to obtain precise clinical findings.　Herein, we propose methods to evaluate and assess aeromedical fitness of pilots for AVT, based on our review of the literature.
　In cases with a history of HDP, when all of the reentry circuits are presumed as being functional based upon an electrophysiological study （EPS）, in principle the pilot is qualified as exhibiting fitness without restriction, otherwise the pilots are not considered fit.
　In cases with Wolff-Parkinson-White （WPW） syndrome without a history of HDP and EPS, those pilots aged 40 years or more, exhibit fitness restricted to low-G aircraft.　If the pilot is less than 40 years of age, they would have fitness restricted to multicrew operations and low-G aircraft.　To remove the restriction, the following procedures may be performed;1） exhibiting both a QRS≦120 msec and Rosenbaum type B on electrocardiography, which would indicate a fasciculoventricular pathway （FVP） that would not develop to HDP;2） The characteristic waveform is presumed from FVP based on no alteration in the QRS waveform using Holter electrocardiogram or adenosine test;and 3） long anterograde effective refractory period is presumed based on intermittent WPW syndrome or disappearance of the delta wave on exercise testing.　In cases with Lown-Ganong-Levine syndrome, which we defined as sustained PR interval <110 msec despite repeated testing, without a history of HDP and EPS, the pilot would have fitness restricted to multicrew operations and low-G aircraft.　To remove the restriction, the observation of no alteration in the QRS waveform on Holter electrocardiogram or adenosine test, which is presumed as not having any apparent alternative pathway, may be performed.

（Received:13 July, 2015　Accepted:18 March, 2016）

Key words:Wolff-Parkinson-White syndrome, pre-excitation syndrome, paroxysmal supraventricular tachycardia, aviation medicine, waiver

I.　緒言

　上室性に電気的興奮のマクロリエントリー機序による発作性上室頻拍（paroxysmal supraventricular tachycardia: PSVT）を起こす疾患は，以下のような二つの発症部位に分類できる。

　�@　房室間を結ぶ副伝導路又は房室結節を介して電気的興奮が旋回するもの，又は，その発症の可能性があるもの（房室領域）。

　�A　房内に限局した電気的興奮を旋回するもの（心房）。

　�@ に該当するものは，房室結節リエントリー頻拍（atrioventricular nodal re-entrant tachycardia:AVNRT），房室リエントリー頻拍（atrioventricular re-entrant tachycardia: AVRT），permanent form of junctional atrioventricular reciprocating tachycardia（PJRT），Wolff-Parkinson-White（WPW）症候群及びLown-Ganong-Levine（LGL）症候群等の早期興奮症候群（pre-excitation syndrome: PES）等が挙げられる。なお，PESは，房室領域にマクロリエントリー回路が形成されており，PSVTに加え，心房細動（atrial fibrillation:Af）又は心房粗動（atrial flutter:AF）を引き起こし，その一部に心室頻拍（ventricular tachycardia:VT）や心室細動（ventricular fibrillation:Vf）を招く可能性のある疾患群である7,11）。�A に該当するものは，AF及び心房頻拍（atrial tachycardia: AT）の心房内のリエントリー頻拍が挙げられる10）が �A については別の機会に検討を行い，ここでは �@ のみを取扱いたい。

　ここでは，房室領域のマクロリエントリー機序によりPSVT等を起こす病態を「房室頻脈性疾患（atrioventricular tachyarrhythmias:AVT）」と呼び，AVTにより動悸，めまい，失神等の循環動態の異常を「血流力学的現象（hemodynamic phenomena:HDP）」と呼ぶこととする。

　HDPを認めた場合は，航空医学的に，重大事故の原因の一つと考えるべきであり，適切な診断により，航空医学適性（以下「適性」という）を判断しなければならない。「適性」とは，�@ 航空業務を実施するために必要な心身の状態が一定水準にあること，すなわち，あらゆる状況下で安全に飛行するために必要な水準以上に心身の状態があること，�A この状態が有効期間中維持されると予想されること，を指す^13）。

　わが国の民間航空において，以下の場合は航空身体検査マニュアルに記載されている身体検査基準に基づき不適合であり，航空業務を行うことが出来ない^13）。ここにおける「不適合」とは，規則で定められた以下に示す身体検査基準を満たさない場合を指す。

　�@　一過性若しくは持続性の上室頻拍（supraventricular tachycardia:SVT）又はAf/AF又はその既往歴があるもの。

　�A　WPW症候群のうち，発作性頻拍を伴うもの，又はその既往歴のあるもの。

　�B　その他心電図上，重大な心疾患を推定できるもの。

　�C　調律異常に対して侵襲的治療（カテーテル心筋焼灼術等）を行ったもの。

　航空自衛隊において，以下の場合は不適合（不合格）となり，民間航空と多少異なった以下のような内容となっている^12）。

　�@　頻拍発作で反復性，かつ症状を伴うもの。

　�A　持続性の発作性頻拍，AF又はAf。

　�B　WPW症候群で発作性頻拍を伴うもの。ただし，検査甲（操縦士候補者の適性判定）では，WPW症候群がないこと。

　�C　その他心電図上，重大な心疾患を推定できるもの。

　不適合とされても，航空業務を希望する者は，所要の精密検査を行い，必要に応じて治療を行い，症状等が安定していることが確認されてから，ウェーバー（Waiver）審査を申請することができる。ウェーバー審査とは，不適合とされた者に対して，その者の経験及び能力を考慮して，審査の結果，その不適合事項が航空安全を脅かされないと判定される場合に限り，身体検査基準に適合するとみなすことができる制度であり13），ここでは，合格の場合を「適性を有する」，不合格の場合を「適性を欠く」と表記する。加えて，身体検査基準に適合するか判定困難な例に対しても，ウェーバー審査を申請し，評価及び判定を受けることもできる^11）。なお，同様な制度は自衛隊にも存在する^12,14）。つまり，適性に関して詳細な検討を行う場合は，原則ウェーバー審査を行うことになる。

　ここでは，国内外の臨床医学的知見及び航空医学的知見の検索を行い，AVTが認められる例の適性評価及び判定法を検討したい。なお，当論文は，原則としてAVTのみが認められている場合を想定しているので，他の基礎疾患の方が病態に大きな影響を及ぼす場合は，別途検討が必要である。

II.　臨床医学的知見

　本検討に必要な知見に関しては，主として，「臨床心臓電気生理検査（electrophysiological study:EPS）に関するガイドライン（以下「EPSガイドライン」とい
う）」^21），「不整脈の非薬物治療ガイドライン（以下「非薬物治療ガイドライン」という）」^23）及び「カテーテルアブレーション（以下「アブレーション」という）の適応と手技に関するガイドライン（以下「アブレーションガイドライン」という）」^22）に基づくとよいと考えられる。診断法及び治療法等の詳細に関しては，主としてこれらガイドラインに譲るが，その中でも航空医学的に重要な事項を記載する。なお，これらのガイドラインのみでは検討するのに不十分と考えられるので，その他の報告等も加える。

　A.　PESを除くAVT

　1.　病態

　Table 1には当該論文で取扱う疾患を示した。

　AVNRTは，先天的に認める房室結節二重伝導路（fast pathwayとslow pathway）のリエントリー頻拍を生じるものをいう。Slow pathwayを順行，fast pathwayを逆行するものをslow-fast（又は通常型）AVNRTと呼ぶ。その逆をfast-slow AVNRTと呼び，その他，slow-slow AVNRTも存在し，それらを非通常型AVNRTと呼ぶことがある。Slow-fast AVNRTが全体の80%以上を占める16）。

　AVRTは，房室間に先天的に認める副伝導路と房室結節の二つの経路のうち，一方を心房から心室に，他方を心室から心房に興奮が伝導しリエントリー性の頻拍を生じるものをいう。AVRTを引き起こすものとして，WPW症候群がある^21）。AVRTの稀な病態として，PJRTは，室房伝導が房室結節-His-Purkinje刺激伝導系を介さず，長い伝導時間をもつ副伝導路（いわゆるslow Kent束）を介するものを指す^21）。

　なお，AVNRT及びAVRTでPSVT全体の90%以上を占めるとされる^10）。

Table 1.　Disorder schema in this document.
房室頻脈性疾患	房室結節リエントリー頻拍	通常型:slow-fast
（早期興奮症候群を除く）		非通常型:fast-slow
		非通常型:slow-slow
	房室リエントリー頻拍	正常副伝導路
		PJRT
早期興奮症候群	Wolff-Parkinson-White症候群	顕性
		間欠性
		潜在性
	Lown-Ganong-Levine症候群
	その他の早期興奮症候群
PJRT:permanent form of junctional atrioventricular reciprocating tachycardia．

Fig. 1. Algorithm to differentiate narrow QRS tachycardia  AT:atrial tachycardia, PJRT:permanent form of junctional atrioventricular reciprocating tachycardia,  AVNRT:atrioventricular nodal re-entrant tachycardia, ANRT:atrioventricular re-entrant tachycardia （modified from reference 21 and reformed）.

　2.　診断

　QRS＜120 msecの頻拍（心拍数≧100 bpm）はNarrow QRS 頻拍と呼ばれ，PSVT，洞性頻脈，AF（2:1伝導）に認められ，VTには認められない。PSVTの中でも，long RP 頻拍（QRS波直前にP波があるもの）はAT，PJRT又はfast-slow AVNRTに，short RP 頻拍（QRS波直後にP波があるもの）は主としてAVRT又はslow-slow AVNRTに，P波が不明な場合はslow-fast AVNRTに認められる^18）。Fig. 1には，narrow QRS 頻拍の鑑別のフローチャートを示す^21）。一方，wide QRS頻拍は，QRS≧120 msecの頻拍を指し，通常，VTの場合であるが，脚ブロック等の変行伝導を伴うPSVTの場合もある。PSVTでは通常，房室解離，QRS≧140 msec（左脚ブロック型では，QRS≧160 msec），左軸偏位（特に電気軸≦−30°）等は認められず，V1誘導で三相性（ただし，taller left rabbit ear（Rsr´波形を示すもの:左のR波が大きいもの）を除く）を示す^20）。

Fig. 1.　TMT results in 264 volunteers （feasibility studies）. a.　Comparison of first and second TMT measurements. In order to verify the precision of the thermometer we used, healthy volunteers were asked to measure their TMT twice.　We then compared the two measurements.　There was no significant difference between the first and second TMT measurements. TMT:tympanic membrane temperature. b.　Variation of TMT with environmental temperature. We also determined whether environmental temperature influenced the TMT of healthy volunteers.　Environmental temperature did not significantly affect TMT values.

　重要となるのは，AVRTとATの鑑別である。ATの多くは発作時の心電図で診断されることから，PSVTに分類される場合が多い。ATは心房内に限局した異常電気興奮が100-240 bpmで現れ，P-P間に等電位線があるものを指す。心電図上，P波はQRS波の前に明瞭に認められるが，心拍数が多い場合は，先行心拍のT波と重なり不明瞭なことがあり，EPSによるfast-slow AVNRT又はPJRTとの鑑別が必要になる場合がある^32）。

　なお，PJRTは，心電図上，II，III，aVF，V5-6で陰性P波が見られるincessant type（頻発型）のlong RP頻拍である^4）。

　B.　PES

　1.　病態

　PESは，WPW症候群及びその亜系^8），房室間に房室結節以外の副伝導路を認めるもの（心電図上，PR時間の短縮を示すもの）を指すようであるが，定まった見解に乏しい。現在，WPW症候群の他，LGL症候群に分類する見解がある^21）。

　WPW症候群は，従来Kent束由来によるものと考えられていたが，最近は，束枝心室伝導路（fasciculoventricular pathway:FVP）由来の病態も含まれるとする見解がある^27）。

　Kent束:先天的に認められる心房と心室間に房室結節以外の副伝導路。

　FVP:房室結節又はHis束から心室筋へ至る線維束を指すものとされるが，順行性減衰伝導特性を有する副伝導路全般を指すという意見もある21）。

　減衰伝導:前刺激から次刺激が入るまでの時間（連結期）が短くなると伝導時間が長くなることを指し，房室結節や洞結節等，結節細胞特有の伝導特性を指す。

　LGL症候群の成因については，James線維，心房-His束副伝導路，房室結節低形成，房室結節伝導亢進（enhanced atrioventricular nodal conduction:EAVNC）又は房室結節二重伝導路の速伝導路（fast pathway）の伝導亢進等が挙げられ，PR時間の短縮については複数の成因が考えられている^21）。

　James線維:洞結節と房室結節を連絡する3本の結節間路（前，中，後）の内，後結節間路が洞結節の後縁から出て，房室結節の大部分をバイパスして，その下方で正常刺激伝導系と連結した副伝導路。

　2.　診断

　WPW症候群は，心電図上，心室早期興奮を反映する，�@ short PR時間（PR＜120 msec），�A QRS＞100 msec，�B デルタ波，を示し，通常，症状を伴うものとされる^21）。ただし，本検討においては無症候の場合もWPW症候群ということとする。その特徴的心電図所見が恒常的に認められる顕性WPW症候群，間欠的に出現する間欠性WPW症候群，副伝導路は存在するがその順行性伝導を有さず逆行性伝導のみを有し特徴的心電図所見を有しない潜在性WPW症候群という分類がある^21）。なお，Rosenbaumらはその心電図波形から以下のように分類している^26）。

　A型:V1でRパターン（R/S比＞1）を示すもの。

　B型:V1でrS パターン（R/S比＜1）を示すもの。

　PESには，WPW症候群の他，short PR時間（PR＜120 msec）を認めるもののQRS波は正常であるLGL症候群という疾患概念があり，その診断にはPSVT，Af/AFの既往を有する必要があるとされる^7）。ただし，本検討においては無症候の場合もLGL症候群ということとする。

　つまり，PSVT等を発症していないAVTは，PES以外診断されないこととなり，PES以外のAVTはPSVT等の発症をきっかけに診断されるものである。

　無症候のPESの評価にアデノシンテストの有用性を主張する研究者もいる^6,27）。アデノシンテストとは，アデノシン三リン酸を急速飽和することで一時的に房室ブロックを作成し，QRS波の形態の変化が認められた場合，副伝導路にリエントリー機能を有すると評価するものである^27）。Fig. 2には，アデノシン三リン酸を急速飽和によるQRS波の形態の変化を示した例を示す^27）。

Fig. 2. Alteration of QRS waveform due to adenosine triphosphate （ATP）  The QRS interval becomes wider but the PR interval remains unchanged due to atrioventricular block by rapid ATP infusion （adenosine test）, which is diagnosed as having a functional accessory pathway（s） （citation from reference 27）.

　3.　WPW症候群の予後

　Afが誘発された無症候のWPW症候群を示した例のうち，約3年の経過観察中に自然発作が出現した8例中3例にVf又は突然死が発生したという報告があり^24），現在は，Af/AFの既往がある場合は心突然死の危険群という認識である。Af/AFの既往以外の危険群の基準は現在確立されていないが，Kent束の順行性有効不応期（期外刺激によって興奮が生じない最長の連結期）が250又は270 msec以下，複数副伝導路，Ebstein奇形合併例は一般的に危険群とされる。自然発作あるいは誘発によるAf時の最短RR間隔については220，240又は250 msec以下を危険群の基準とするものがある。EPSで，心室応答の早いAfやAVRTが誘発される場合や，Afが誘発されKent束順行性有効不応期が300 msec以下の場合も危険群であるとの報告もある^21）。

　WPW症候群の中に，PSVT，Af/AFを引き起こす危険はないとされるFVPによるものが含まれていることが指摘されている。Suzukiらは，無症候かつQRS≦120 msecのWPW症候群30名（平均年齢12.7歳）にアデノシンテストを行い，WPW症候群（副伝導路に機能を有する）とFVP（副伝導路に機能を有しない）の鑑別を行ったところ，7例（23.3%）がWPW症候群，23例（76.7%）がFVPであった。Rosenbaum A型を示した例は6例全員（100%）がWPW症候群，B型を示した例は24例中23例が（96%）がFVPであった。B型を示した1例のWPW症候群は，アデノシンテストで明らかにWPW症候群と分かる大きなデルタ波とQRS＞120 msecを示していた。この結果より，QRS≦120 msecのB型は概ねFVPであろうと述べている^27）。

　加えて以下のように考察されている。

　�@　トレッドミル運動負荷心電図は，房室伝導が顕在化することから，デルタ波が小さくなり，QRS幅が狭くなると予想されるが，有用ではなかった。

　�A　ホルター心電図を実施し，心房期外収縮の発生や心拍数の変化に応じQRS波の形態の変化が認められた場合はWPW症候群と診断できる。かつ，心拍数が少なくなった時は，WPW症候群では，デルタ波が著明になるはずである。

　Cohenらによる作業部会は，WPW症候群を示した8歳から21歳までの若年者に対する取扱い（心突然死の予防）について見解を示し，以下の通りとなっている^25）。

　�@　無症候の間欠性WPW症候群の場合は経過観察。

　�A　無症候の顕性WPW症候群の場合は運動負荷検査を行い，PESの証拠がなくなれば経過観察。それ以外はEPSを実施。

　�B　EPSにより，SVTが誘発されればアブレーションの適応がある。

　�C　Af時の心電図上の最短RR時間が250 msec以下の場合は，心突然死の可能性が高いのでアブレーションの適応があり，250 msecより長く，EPSによりSVTが誘発されない場合は経過観察でよいが，SVTを起こすと好ましくない特徴がある者（ここでは他の心疾患等を合併している者を想定している）はアブレーションを行った方が良い。

　加えて過去の報告の分析を行い，以下のように述べている。

　�@　加齢とともに副伝導路の機能が低下すると考えられる。

　�A　無症候の成人の心突然死の年間発症率は0%〜0.45%であった。

　�B　運動負荷検査によるデルタ波の消失は，Kent束の長い順行性有効不応期に関連している。ただし，運動負荷によってデルタ波が消失するのは主として小児である。

　Fitzsimmonsらは，WPW症候群を示した軍用航空従事者228名（平均年齢34.3歳）に対し平均22年間追跡調査を行った。そのうち1名だけが突然死を起こした（年間死亡率0.02%）。「symptoms又はSVT（ここでは3連発以上を指す）」の既往例の追跡調査中のSVTの発症は46.3%（年間発症率2.0%），無症候例のSVTの新規発症は15.3%（年間発症率0.7%）であった。SVTの新規発症を認めた無症候例28名のうち19名にHDP（67.8%）が認められた^3）。

　Goudevenosらは，北西部ギリシャでWPW症候群を示した157名（平均年齢42.5歳）に対して平均55ヶ月（4.6年）観察を行った。そこには80名のsymptoms （brief palpitations）が既往歴又は経過観察中に認められた例と，77名の経過観察中にsymptomsは認められなかった例が登録されている。ただ，symptomsが認められない80名のうち，心電図診断後に初めてsymptomsが認められた例はわずか3名しかいなかった^5）。つまり，当初symptomsが認められていなかったのは，77+3=80名であった。平均4.6年の経過観察で3名が発症したことから，無症候例のsymptomsの年間発症率は0.8%程度となる。なお，symptomsの初発年齢は概ね40歳未満であったと報告している5）。

　Mungerらは，無症候のWPW症候群53名（平均年齢33歳）に537 patient-years観察を行ったところ，突然死は認められず，11名（年間発症率2.0%）にsymptomsが認められた。そのsymptomsの内訳は，6名にtachycardia，5名にlimited palpitationであった。なお，symptomsが認められた例の平均年齢は25歳であり，40歳以上では発症が認められなかったと報告している^17）。

　4.　LGL症候群の予後

　LGL症候群では，short PR時間を120 msec以下とした場合，一般人の2〜4%がこれを満たすことも報告され，PR時間は自律神経や薬物の影響も受けること，あるいは心電図を通常の記録速度（25 msec）で記録するとP波の電位が低くなだらかであることから，20 msec程度の測定誤差が生じ得ることも指摘されている^9）。

　Nielsenらは，Copenhagen General Practitioner’s Laboratoryで参照できた11,087名の15歳以上で，Afの既往のない対象者（平均年齢57歳，他の心疾患の既往も含む）に対し，平均5.7年間の追跡調査を行った。その結果，PR時間が短縮又は延長されればされるほど，男女ともJ曲線を描くようにAfの発症率が高まることを示した。そして，女性の121 msec以下群（5% percentile以下）は，中央値群（148-157 msec）に比べ有意（危険率1.21）にAfの発症は多かったが，男性の129 msec以下群（5% percentile以下）は，中央値群（154-165 msec）に比べ多い傾向を示したが，有意でなかった（危険率1.09）。Afを発症した女性の121 msec以下群に，デルタ波を認めたのは164名中1名（0.6%）であった。年間発症率は，女性の121 msec以下群（平均年齢43歳）0.43%，女性の122-135 msec群（平均年齢47歳）0.39%，男性の129 msec以下群（平均年齢44歳）0.44%，男性の166-179 msec群（正常範囲，平均年齢55歳）0.71%であった。最短のPR時間は男女とも104 msecであった^19）。

　Grossmanらは，PESが疑われる59名（デルタ波が疑われる例15名，デルタ波がない例44名，平均PR時間110 msec）のイスラエル空軍の操縦士候補生にアデノシンテストを実施し，すべての候補生に明らかな副伝導路を認める所見が認められず，平均35.4ヶ月観察を行ったが異常は認めなかったと報告している^6）。

　C.　AVTの治療

　本検討で取扱う疾患（Table 1）の治療は原則アブレーションである。アブレーションに関する詳細は，アブレーションガイドライン及び非薬物療法ガイドラインに記載されており，AVTの根治が期待できる治療法である^21,23）。Table 2には，これらガイドラインにおけるアブレーションの推奨度をまとめた。EPS（アブレーション後の効果判定を含む）に関する詳細は，EPSガイドラインに記載されている^21）。なお，これらの手技をここでは「カテーテル処置」ということとする。

　AVNRT及びWPW症候群（AVRT）のアブレーションの手技はほぼ確立されたとされる^31）。LGL症候群は，その診断にはPSVT，Af/AFの既往を有する必要があることから，症状を有する場合はカテーテル処置の適応と考えられるが，short PR時間のみでこれらの既往を有しない例には，一般的に適応されないとされている^30）。しかし，short PR時間例でAf等合併時にVf発症が報告されていることは注意を要する^21）。

III.　航空医学的知見

　航空医学的知見で有用なものは，一般的には民間航空医学マニュアル（Manual of Civil Aviation Medicine: 民間航空の医学評価に関する標準的なマニュアル，主として欧州の航空当局の研究者が作成），航空身体検査医ガイド（Guide for Aviation Medical Examiners:米国における航空身体検査マニュアル），米空軍ウェーバーガイド（Air Force Waiver Guide:米空軍におけるウェーバー審査申請のためのマニュアル），米海軍ウェーバーガイド（U. S. Navy Aeromedical Reference and Waiver Guide:米海軍における航空身体検査の方法及びウェーバー審査申請のためのマニュアル）等のマニュアル，Rayman’s Clinical Aviation Medicine等の教科書，論文等である。これらを検索した結果，評価及び判定法作成に有効な記述のみを以下に述べる。

　なお，国内の規則も検討に必要であるため，ここで述べる。

　A.　民間航空医学マニュアル^15）

　AVNRTは，発作は一生涯において再発する傾向があり，確実に完全に抑制することができないため，通常，適性を欠く。例外として，遅伝導路の修飾を受けて，EPSで誘発されなければ，適性を有するとできる（1.5.23の項）。

　初めてWPW症候群を示した場合，適性を欠くとすべきである。不整脈の既往がなく，精査に異常がなければ，複座機（2名以上の操縦士が操縦可能な航空機）の業務条件を付して適性を考慮することができる（1.5.27の項）。

　無制限の適性に関しては，EPSで誘導性SVTを認めないこと，及び副伝導路有効不応期が300 msecより大きいことの証明が必要である。リエントリー性不整脈の既往歴がある場合，副伝導路のアブレーションにより合格が可能である（1.5.28の項）。

　B.　米空軍ウェーバーガイド^1）

　症状があるものは適性を欠く。3連発以上の上室期外収縮は詳細な評価を行うこととなっている（Supraventricular Tachycardiaの章）。

　AVNRTは，操縦士候補生でも現役操縦士でも，ウェーバー審査可能である（Catheter Ablation of Tachyarrhythmias and/or Pre-Excitation （WPW）の章）。

　WPW症候群（無症候も含む）は不適合である。操縦士候補生ではウェーバー審査可能であるが，EPSの実施が必要となる。なお，現役操縦士に関しては，EPSに関して言及されていない（Wolff-Parkinson-White （WPW） and Other Pre-Excitation Syndromesの章）。

　SVTに関し，アブレーション治療が行われていない限り，症状を伴うものは原則的に適性を欠く。再発した持続性SVT（ここでは10分以上続くSVTを指す）は適性を欠く。コントロールするために抗不整脈薬が必要なものは適性を欠く（Supraventricular Tachycardiaの章）。

　C.　米海軍ウェーバーガイド^29）

　症状のあるWPW症候群は適性を欠く。無症候のWPW心電図波形があれば，EPSを含む評価が必要で，異常がなければ，ウェーバー審査可能である。EPSで不整脈が誘発された場合は，アブレーションを行い，同じ方法で誘発されないことを示す必要がある。Service Group 3（複座機限定操縦士）であれば，6ヶ月間の経過観察の後にウェーバー審査申請可能となる。Service Group 1（業務条件が限定されない操縦士）等であれば，6ヶ月間の経過観察後，再発等を起こさないことを証明する書類を付してウェーバー審査申請可能である。症状を伴うWPW症候群やLGL症候群でウェーバー審査を受けるには，アブレーションが必要である。

　デルタ波を伴わないvery short PR時間 （PR＜100 msec）は非侵襲的心評価で異常がなければ適合であるが，異常があれば不適合で，EPS又はアブレーションが必要となる。

　不整脈や症状を伴わないshort PR時間 （≧100 msec） は適性を有する。以後，評価は不要である（3.19 Pre-excitation Syndromesの章）。

　D.　わが国の国土交通省航空局（以下「航空局」という）の規則^2）

　通達「調律異常の取扱いについて」では，安静時心電図で，心室起源であれ上室起源であれ2発以上の期外収縮があった場合にはホルター心電図を行うこととなっており，
　�@　5,000発/日以上の上室期外収縮。
　�A　SVT（10連発以上かつ心拍数170/bpm以上，または30秒以上持続するもの）
　のどちらか認められれば不適合である。

　ウェーバー審査に提出可能な経過観察期間は以下の通りである。

　�@　WPW症候群に対するカテーテルアブレーション後:6ヶ月

　�A　WPW症候群による頻拍発作既往:頻拍発作の出現のない状態で6ヶ月

　E.　航空局の規定に基づいたFitzsimmonsらの報告の解析

　SVTとは10連発以上を示すものを指すようであるが^28），明確な定義がされていない。我々は，航空局の規定^2）を参考に，HDPを来すと考えられる「航空局基準」を以下のいずれかを満たすことと定義した。

　�@　上室性の不整脈が10連発以上かつ心拍数170 bpm以上を示したもの。

　�A　上室性の不整脈が30秒以上持続したもの（Af/AF/ATを除く）。

　Fitzsimmonsら報告^3）の無症候例における新規発症例のうちSVT（3連発以上）が記録された18例を解析すると，航空局基準を満たすものは15例（83.3%）であった。無症候例のSVTの新規発症は15.3%（年間発症率0.7%）と報告されているので，航空局基準を満たすものは年間0.6%程度と予想される。なお，無症候例において，経過観察中にWPW症候群が消えた例（間欠性WPW症候群）は，そうでない例に比べて，有意差がなかったが，SVTの発症が少なかった（8.7%対23%）。無症候の間欠性WPW症候群の例を解析すると，SVT（3連発以上）の新規発症は年間0.2%程度，航空局基準を満たすものも年間0.2%程度と予想される。

　F.　1%ルール

　現在「1%ルール」に基づいた確率論的な適性判定を行うことが，航空医学上のリスク評価の基本的な考え方となっている。複座機の業務の操縦士が機能喪失を起こした場合を想定し，以下の検討からその値は導き出された。

　過去の事故の検討から致死的な事故は107時間に1回の割合で起こるとされている。その内1/10が人的要因で，さらにその1/10が飛行中の機能喪失による。つまり10⁹時間に1回以上の頻度の機能喪失を起こしてはならないとされる。飛行時間のうち特に危険な期間は，離陸と着陸の間で，それらは全飛行時間の10%のみである。この危険な時間において操縦中の操縦士に機能喪失が起こったとしても，過去の検討から他の操縦士が100回のうち99回までは安全に操縦を交代できるとされる。よって，1/1,000，すなわち複座機の業務の場合，10⁶時間に1回以上の頻度の事故は起こすべきではないこととなる。1年間は8,760時間であるが，10,000（10⁴）時間として考えると，年間の機能喪失の確率が概ね1%以下であれば，機能喪失による事故を確率論上許容できることになる^15）。

　これは民間航空における複座機の業務で言えることであるので，単座機種や自衛隊の高G機種には当てはまらない。ただし，自衛隊でも輸送機等の複座機の業務については，基本的に1%ルールに基づいてリスク評価することが適当と考える。

　なお，無制限（付帯条件なし）の適性を認める場合は，健常者と同等の機能喪失の確率と考えられる時であろう。

IV.　知見に基づいた適性の考え方

　A.　航空局基準に基づいた適性の考え方

　Fitzsimmonsらの報告^3）で，「SVT（ここでは3連発以上を指す）」が観察されたものうち，67.8%にHDPが認められ，83.3%に航空局基準を満たしたことから，HDPを認める状態というものは，航空局基準又はそれより悪い病態のSVTが存在する状況であると考えられる。

　AVTによる「完全な」機能喪失が起こりうるのは，VT/VFを惹起するような病態がある場合であり，これらの年間発症率が1%を超える場合は適性を欠く。加えて，HDPを認める状態は，安全な航空業務を行うことはできないことから，同様にHDPの年間発症率が1%を超える場合は適性を欠くとするのが適当と考えられる。

　動悸，めまい，失神等の自覚症状があればHDPがあるといえるが，操縦業務が行えなくなる可能性から申請者が適切に申告しない場合もあり得る。そこで，HDPの自己申告に加え，ホルター心電図等の客観的な検査結果からHDPの有無を推定する必要もある。非常に困難な点は，どの程度のSVTを「HDPがある」と定義するかであるが，上記したように，航空局基準がHDPを認める初期の状態と考えてよいであろう。なお，WPW 症候群及びLGL 症候群はAfの危険因子であることから，Afの同様の病態であるAF/ATも加えてHDPとすべきである。

　以上の検討から，以下のいずれかの場合は「HDP」と判断してよいであろう。

　�@　原疾患に基づくHDPがある場合。

　�A　WPW 症候群又はLGL 症候群においてAf/AF/ATの既往がある場合。

　�B　上記が不明な場合は，経過観察中（その期間の検討は以下で行う）に航空局基準を認めた場合。

　航空局及び航空自衛隊の規定に記載されている「持続性の上室頻拍/頻拍発作/発作性頻拍」は非常に曖昧な表現であるが，上記項目を満たすものとすればよいであろう。

　B.　初回評価

　初めてAVTの評価を行う場合，基礎疾患等の詳細な評価を行う必要がある。通常「スクリーニング検査（心エコー検査，ホルター心電図，トレッドミル運動負荷心電図検査等）」を実施し，基礎疾患等が疑われた場合には器質的心評価（核医学検査，冠動脈造影，心臓MRI等）等を実施することとなる。以上の評価にて，臨床上有意な器質的心疾患等の異常が認められない場合は「基礎疾患等が認められない」ということになる。基礎疾患等が認められた場合は，その治療等を行うべきである。

　基礎疾患等の治療，カテーテル処置，薬物治療又は経過観察等にて，症状等が安定した場合は，経過観察期間を設け，ホルター心電図等で再発等がないことの確認を行う。以上の一連の流れを，ここでは「初回評価」ということとする。

　C.　治療

　AVTのマクロリエントリーの病態から，特に操縦士に対してはアブレーションにおける根治の可能性を考慮すべきである。

　航空局のウェーバー審査において，WPW症候群でアブレーションを行った場合は，6ヶ月の経過観察の規定を設けている^2）。現在のところ，この期間にて不具合が生じていないため妥当と考えられるが，経過観察を6ヶ月とした明確な根拠がないため，今後明確な根拠があればそれに従って変更すべきと考える。

　D.　適性の検討

　AVTの初回評価及び治療等を行った場合，以下の �@〜�A が考えられる。

　�@　すべてのリエントリー回路がEPSによって無機能と推定され，経過観察中に再発を認めない場合。

　�A　�@を満たさない場合。

　1.　HDPの既往があるAVT

　再発が予想されるので �@ を満たした場合は，無制限の適性を有する。ただし，Af/AF/ATの既往がある場合，再発の恐れから，原則として複座機かつ低G機種限定とするべきであろう。

　2.　HDPの既往がないWPW症候群

　カテーテル処置が施行された場合は，�@ を満たした場合は無制限の適性を有する。�A の場合について以下で検討する。

　これまでの知見より，以下の通りと考えられる。

　1）　QRS≦120 msecのB型は概ねFVPである^27）。

　2）　ホルター心電図又はアデノシンテストでQRS波に形態変化が認められた場合は副伝導路に機能があると考えられる^27）。

　3）　成人においてPSVT等の既往がないWPW症候群の心突然死は，ほとんど起こらない^3,5,17,25）。

　4）　Cohenらの作業部会の見解は心突然死に主眼を置いており，運動負荷検査で異常が認められなかったとしても，HDPを否定するには至らない。ただし，運動負荷心電図検査を実施して，デルタ波が消失するのであれば，副伝導路の機能が低いと考えられる。かつ，加齢とともに副伝導路の機能が低下すると考えられる^25）。

　5）　Goudevenosら^24）及びMungerらの報告^17）から，「symptoms又はSVT」の既往がない40歳以上は「symptoms又はSVT」がほぼ起こらないと考えられるが，40歳未満であれば一定の確率（年間0.7〜2%程度）で重症度が不明の「symptoms又はSVT」は起こりうる^3,5,17）。ただし，軽微な例やWPW症候群に伴わないものも含まれると考えられ，我々が定義したHDPは，それよりも少ないと考えられる。なお，最も操縦士に即したFitzsimmonsらの報告^3）の我々による解析では，無症候例のHDPの新規発症率は年間0.6%程度であった。無症候例の間欠性WPW症候群における我々が定義したHDPの新規発症率は年間0.2%程度であった。

　上記の見解から，一般住民の40歳以上はほぼHDPを発症しないことから，適性を有するが，エビデンスのない高G機種を除くとした方がよいであろう。一方，新規発症しやすいのは40歳未満の若年者層であり，操縦経験の浅い若い操縦者にHDPが起こった場合には，事故につながりやすいと考えられる。ただし，「symptoms又はSVT」の年間発症率が1%以上の可能性も否定できないが，実際のHDPを示すものの発症率は，Fitzsimmonsらの報告^3）によれば1%未満と考えられる。間欠性WPW症候群の場合は，HDPの頻度はさらに低いと考えられる。従って，40歳未満の場合は，原則として複座機かつ低G機種限定の適性を有する。ただし，以下の場合に無制限の適性を有するとしてもよいであろう。

　1）　QRS≦120 msecかつRosenbaum B型。

　2）　ホルター心電図又はアデノシンテストを実施し，QRS波形の形態の変化を認めず，束枝心室伝導路が推定される場合。

　3）　間欠性WPW症候群又は運動負荷検査によりデルタ波の消失等，副伝導路の長い順行性有効不応期が推定される場合。

　3.　HDPの既往がないLGL症候群

　カテーテル処置が施行された場合は，�@ を満たした場合は無制限の適性を有する。�A の場合について以下で検討する。

　Nielsenらの報告^19）は，デルタ波を示した例は0.6%しかなく，事実上LGL症候群の検討と同等と考えられる。ここでは，short PR時間が短くなればなるほど，若年者（男女とも40代）のAfの発症率が高い。Nielsenらの報告を解析すると，Afの年間発症率は，1%未満であり，女性のshort PR時間群（≦121 msec）と正常群（122-135 msec）がほぼ同等であり，男性のshort PR時間群（≦129 msec）は正常群（166-179 msec）と比べて，若年である分だけ年間発症率が低い。以上のことから極端にPR時間が短い群を除けば，概ね正常群と同等のAfの発症率と考えられる。

　米海軍ウェーバーガイドでは，very short PR時間 （PR＜100 msec）の場合は非侵襲的心評価が必要であり，short PR時間 （≧100 msec）の場合は無制限の適性を有するとしている。これはNielsenらの報告を考慮するとこのような内容となり，わが国でもこれに準拠すればよいであろう。ただ，PR時間の測定は誤差があり^9），Nielsenらの報告^19）の最少のPR時間は104 msecであったことから，110 msec程度を境界とし，これ未満を航空医学的なLGL症候群とするべきであろう。ただし，心電図には20 msec程度の測定誤差が生じ得ることから^9）。繰り返し検査を行って診断するべきである。

　LGL症候群と診断された場合でも，Nielsenらの報告^19）からAfの発症率がわずかに上がるだけであることから，複座機かつ低G機種限定の適性を有する。Grossmanらの報告^6）から，アデノシンテストは副伝導路の有無の推定に有用であると考えられることから，ホルター心電図又はアデノシンテストの結果から，QRS波形の形態の変化を認めず，著明な副伝導路がないと推定される場合は無制限の適性を有するとしてよいであろう。

　F.　AVTの適性判定案

　以上の検討を踏まえ，AVTの適性判定案をTable 3に示した。なお，定義したHDPを認めなかった場合でも，臨床医学的にカテーテル処置が必要とされた場合は実施すべきである。

V.　終わりに

　今回，主としてWPW症候群を対象としたAVTの適性評価及び判定法の検討を，国内外の臨床医学的知見および航空医学的知見に基づいて行った。適性の判定機関は，可能な限り科学的根拠に基づいた統一見解をもって，審査の運用を行うことが重要であり，その公正な審査・判定の資となるような提案を試みた。

　わが国で高G機種（民間の曲芸飛行等は除く）の業務を行う操縦士は，航空自衛隊のみの所属となるが，航空自衛隊の規則^12）では，操縦士候補生の心電図上WPW症候群を認めた場合は適性を欠くこととなっている。従って，航空自衛隊において40歳以上で初めて心電図上WPW症候群を発見される例は通常ありえないことから，EPSを実施していないWPW症候群の40歳以上を低G機種限定にしても運用上特に問題がないであろう。

　わが国のウェーバー審査は，国土交通省（航空局）と防衛省（自衛隊）においてそれぞれの審査機関で行われているが，その審査はケースバイケースで行われることが多く，科学的根拠に基づいた統一的なガイドラインはない。我々の提案が，このガイドラインの作成につながり，適性評価・判定に以下の効果を与えることを期待している。

　�@　適性評価及び判定法の明確化。

　�A　判定の公平性の維持。

　�B　判定を行う前にスクリーニングを行うことにより，検査費用，申請者の心身的な負担，判定者の負担等の損失を防ぐことができる。

　本内容は2015年6月時点での見解について記載した。今後の知見及び医学の進歩にて内容の再検討を進めるべきと考えられる。

VI.　謝辞

　本検討にあたり，循環器学に関する貴重な御助言を賜りました峰政貴医官に謹んで御礼申し上げます。

文　　　献

1） Air Force Waiver Guide, Last Update:28 May 2013.
http://www.wpafb.af.mil/shared/media/document/AFD-130118-045.pdf#search=’Air+Force+Waiver+Guide’, （accessed 2015-05-28）.

2） 調律異常の取扱いについて，国空航第687号，平成25年11月27日．

3） Fitzsimmons, P.J., McWhirter, P.D., Peterson, D.W. and Kruyer, W.B.:The natural history of Wolff-Parkinson-White syndrome in 228 military aviators:a long-term follow-up of 22 years.　Am. Heart J., 142, 530-536, 2001.

4） 藤木　明:房室リエントリー性頻拍，別冊循環器症候群I，日本臨床，pp. 578-582, 2007.

5） Goudevenos, J.A., Katsouras, C.S., Graekas, G., Argiri, O., Giogiakas, V. and Sideris, D.A.:Ventricular pre-excitation in the general population:a study on the mode of presentation and clinical course.　Heart, 83, 29-34, 2000.

6） Grossman, A., Wand, O., Matezki, S., Kerner, A., Assa, A. and Glikson, M.:Use of adenosine test for the exclusion of preexcitation syndrome in asymptomatic individuals.　Ann. Noninvasive Electrocardiol., 16, 180-183, 2011.

7） 蜂谷　仁，平尾見三:Lown-Ganong-Levine症候群，別冊循環器症候群I，日本臨床，pp. 212-215, 2007.

8） 蜂谷　仁，平尾見三:早期興奮症候群，別冊循環器症候群I，日本臨床，pp. 413-418, 2007.

9） Josephson, M.E. and Kastor, J.A.:Supraventricular tachycardia in Lown-Ganong-Levine syndrome:atrionodal versus intranodal reentry.　Am. J. Cardiol., 40, 521-527, 1977.

10） 木村隆介，笠貫　宏:発作性上室性頻拍，別冊循環器症候群I，日本臨床，pp. 586-589, 2007.

11） 貴田岡成憲，井上寛一:Wolff-Parkinson-White症候群，別冊循環器症候群I，日本臨床，pp. 239-243, 2007.

12） 航空自衛隊航空身体検査規則，航空自衛隊達第19号，昭和54年8月3日 （最終改正:平成24年3月29日，航空自衛隊達第25号）．

13） 航空身体検査マニュアル，国空乗第531号，平成19年3月2日（最終改正:平成25年11月27日，国空航第684号）．

14） 航空身体検査に関する訓令，防衛庁訓令第1号，昭和33年1月6日（最終改正:平成26年1月24日，省訓第1号）．

15） Manual of Civil Aviation Medicine, Third Edition 2012.
http://www.icao.int/safety/aviation-medicine/Documents/8984_cons_en.pdf#search=’Manual+of+Civil+Aviation+Medicine’, （accessed 2015-05-28）.

16） 水牧功一:房室結節リエントリー頻拍，房室結節部リエントリー頻拍，別冊循環器症候群I，日本臨床，pp. 564-569, 2007.

17） Munger, T.M., Packer, D.L., Hammill, S.C., Feldman, B.J., Bailey, K.R., Ballard, D.J., Holmes, D.R. Jr. and Gersh, B.J.:A population study of the natural history of Wolff-Parkinson-White syndrome in Olmsted County, Minnesota, 1953-1989.　Circulation, 87, 866-873, 1993.

18） 中島英子，熊谷浩一郎:Regular narrow QRS tachycardiaの鑑別診断と治療，日本内科学会雑誌，95, 299-304, 2006.

19） Nielsen, J.B., Pietersen, A., Graff, C., Lind, B., Struijk, J.J., Olesen, M.S., Haunsø, S., Gerds, T.A., Ellinor, P.T., Kober, L., Svendsen, J.H. and Holst, A.G.:Risk of atrial fibrillation as a function of the electrocardiographic PR interval:results from the Copenhagen ECG Study.　Heart Rhythm, 10, 1249-1256, 2013.

20） 西崎光弘:Wide QRS 頻拍の鑑別診断と治療，日本内科学会雑誌，95, 305-313, 2006.

21） 小川　聡，相澤義房，青沼和隆，家坂義人，石川利之，井上　博，奥村　謙，加藤貴雄，鎌倉史郎，熊谷浩一郎，栗田隆志，小坂井嘉夫，小林洋一，庄田守男，杉　　薫，住友直方，高月誠司，高柳　寛，中里祐二，平井真理，渡辺一郎，岩佐　篤，大西　哲，久賀圭祐，小林義典，里見和浩，丹野　郁，池主雅臣，永瀬　聡，藤木　明，安田正之:臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン（2011年改訂版）．
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_ogawas_h.pdf
（参照2015-05-28）.

22） 奥村　謙，相澤義房，相原直彦，青沼和隆，沖重　薫，熊谷浩一郎，庄田守男，住友直方，高橋　淳，内藤滋人，中村好秀，野上昭彦，平尾見三，松本万夫，村川裕二，山根禎一，大和田真玄，佐々木真吾，里見和浩，夛田　浩，池主雅臣，蜂谷　仁，新　博次，家坂義人，櫻田春水，筒井裕之，三田村秀雄:カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン．
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_okumura_h.pdf（参照2015-05-28）.

23） 奥村　謙，相澤義房，青沼和隆，磯部文隆，大西　哲，加藤貴雄，清水昭彦，新田　隆，萩原誠久，松本万夫，村川裕二，石川利之，岩　　亨，梅村　純，草野研吾，栗田隆志，佐々木真吾，志賀　剛，庄田守男，住友直方，中里祐二，中村好秀，庭野慎一，平尾見三，大江　透，笠貫　宏，木村　剛，児玉逸雄，田中茂夫:不整脈の非薬物治療ガイドライン（2011年改訂版）.
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_d.pdf（参照2015-05-28）.

24） Pappone, C., Santinelli, V., Manguso, F., Augello, G., Santinelli, O., Vicedomini, G., Gulletta, S., Mazzone, P., Tortoriello, V., Pappone, A., Dicandia, C. and Rosanio, S.:A randomized study of prophylactic catheter ablation in asymptomatic patients with the Wolff-Parkinson-White syndrome.　N. Engl. J. Med., 349, 1803-1811, 2003.

25） Pediatric and Congenital Electrophysiology Society （PACES）;Heart Rhythm Society （HRS）;American College of Cardiology Foundation （ACCF）;American Heart Association （AHA）;American Academy of Pediatrics （AAP）;Canadian Heart Rhythm Society （CHRS）, Cohen, M.I., Triedman, J.K., Cannon, B.C., Davis, A.M., Drago, F., Janousek, J., Klein, G.J., Law, I.H., Morady, F.J., Paul, T., Perry, J.C., Sanatani, S. and Tanel, R.E.:PACES/HRS expert consensus statement on the management of the asymptomatic young patient with a Wolff-Parkinson-White （WPW, ventricular preexcitation） electrocardiographic pattern:developed in partnership between the Pediatric and Congenital Electrophysiology Society （PACES） and the Heart Rhythm Society （HRS）. Endorsed by the governing bodies of PACES, HRS, the American College of Cardiology Foundation （ACCF）, the American Heart Association （AHA）, the American Academy of Pediatrics （AAP）, and the Canadian Heart Rhythm Society （CHRS）.　Heart Rhythm, 9, 1006-1024, 2012.

26） Rosenbaum, F.F., Hecht, H.H. and Wilson, F.N.:The potential variations of the thorax and the esophagus in anomalous atrioventricular excitation （Wolff-Parkinson-White syndrome）.　Am. Heart J., 29, 281-326, 1945.

27） Suzuki, T., Nakamura, Y., Yoshida, S., Yoshida, Y. and Shintaku, H.:Differentiating fasciculoventricular pathway from Wolff-Parkinson-White syndrome by electrocardiography.　Heart Rhythm, 11, 686-690, 2014.

28） 田邉晃久，横田国史:期外収縮［心房性，房室接合部性，心室性］，別冊循環器症候群I，日本臨床，pp. 299-296.

29） U. S. Navy Aeromedical Reference and Waiver Guide, April 30, 2015.
http://www.med.navy.mil/sites/nmotc/nami/arwg/Documents/Complete_Waiver_Guide_150430.pdf, （accessed 2015-05-28）.

30） Wiener, I.:Syndromes of Lown-Ganong-Levine and enhanced atrioventricular nodal conduction.　Am. J. Cardiol., 52, 637-639, 1983.

31） 山内康照:実地医家に求められるカテーテルアブレーション治療の知識と日常診療への応用，アブレーションで根治が得られやすい頻拍と得られにくい頻拍，Medical Practice, 27, 1835-1840, 2010.

32） 吉賀康裕，清水昭彦，松崎益徳:左房起源心房頻拍。別冊循環器症候群I，日本臨床，pp. 338-341, 2007.

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