宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 71, 2015

シンポジウム

27. 宇宙医学の特殊性

村井  正

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構

Another Feature of the Space Medicine

Tadashi Murai, M.D., Ph.D.

Japan Aerospace Exploration Agency

「宇宙医学」とは宇宙に関連した医学全般を指す広い意味の言葉であるが,主として以下の三つの側面から理解するとわかり易い。第一が,宇宙で人間が受ける影響とその不都合に対する対策に関する医学であり,すなわち宇宙飛行士の産業医学的管理の側面である。第二は,宇宙でその環境を利用した研究を行い,地上での研究のみでは得られなかった科学的な成果を得るライフサイエンス研究の分野である。しかしこれらとは少し異なり,宇宙開発で広がった技術的可能性を地上の医療に利用していく試みなどの,第三の側面とも言うべき分野が存在する。例えば通信衛星を利用したへき地の医療の支援,地球観測衛星のデータを用いた感染症のコントロールなどの例が思い浮かぶ。この第三の側面は,これまで当学会において,比較的取り上げられることが少なかったように感じていたので,今回はJAXA等において試みられているいくつかの例を紹介し,この分野における今後の方向性について議論できればと考えている。
具体的には,JAXAの陸域観測技術衛星「だいち」による,アフリカにおけるポリオウィルス分布の調査作業の例,通信衛星「きずな」「きく8号」を用いた災害医療センターや日本医師会への支援などについて,JAXAの担当者から紹介した。