宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 63, 2015

一般演題

19. 宇宙精神医学心理学会議の最新の動向

緒方 克彦

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構

The topics of the latest Space Human Behavior Performance Meeting

Katsuhiko Ogata

Human Spaceflight Technology Directorate, Japan Aerospace Exploration Agency

ISS搭乗を前提とした状況では,厳しい訓練や6か月間の長期滞在任務に耐え抜く忍耐力や精神的安定性が重要視され,そのような資質の選抜とそれを増強する訓練の確立が議論の中心であった。しかし月·惑星探査を目的とする有人宇宙開発が展望されるようになった現在,精神心理学上諸問題を解決する必要性は,これまでにも増して深刻な程度にまで高まっている。
宇宙精神医学心理学会議(SHBP)は,多極間医学運用会議(MMOP)の12ある分科会の一つと位置づけられている。本会議では既にISS完成のころに,宇宙飛行士の備えるべき資質と適性について,選抜の際に重視すべき適性,養成期間中に育成すべき資質,チームとして強化すべき能力の3種の観点から整理され,特殊訓練課目の新設やチーム行動訓練のシナリオ等に活かされてきた。
従来の議論に加えて近年は,ISS滞在の中でも超長期(1年以上)に及ぶ滞在や月·惑星探査を目標として,探査時代の宇宙飛行士が搭乗だけではなく隔絶した環境で居住するために備えるべき資質と適性の選定,それらを育成するための新しい訓練のための研究,彼らを助ける生活環境や医療器材等の開発などに議論を深化させてきており,2015年10月に開催された会議においては,NASA/SHBPチームの研究成果について紹介された。
結論から言えば,滞在期間が長期化すればするほど,地球からの距離が遠くなる程,求められる能力は項目数と程度の双方において増大する。さらにチームワークで対処する力も現在より求められるようになるが,個人で危機に立ち向かい脱出する創意工夫や粘り強さなどがそれよりも要求度が高く評価されるという結果だった。現在のISS滞在では多くの困難に対し,先ずはチームとして対処することが基本であるのに対し,探査時代にはチーム以外の個々に対処する場面が増大する,言い換えれば一人何役もこなすことが不可欠である,ということになる。
本研究は非公開だが,探査時代を模擬した環境での実験研究の参考として考慮され,近い将来の宇宙飛行士選抜や宇宙機開発の資料と予想される。