宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 62, 2015

一般演題

18.　有人惑星探査における宇宙飛行士の精神心理的課題と対策

志村　冬華^1,2,3，後藤　萌葉^1,2，�燗c　邦夫³，徳丸　治^2,4，立花　正一³

¹大分大学医学部学生
²大分大学医学部神経生理学講座
³防衛医科大学校防衛医学研究センター異常環境衛生研究部門
⁴大分大学福祉健康科学部

Psychiatric and psychological challenges and countermeasures of astronauts for human interplanetary explorations

Fuyuka Shimura^1,2,3, Moeha Goto^1,2, Kunio Takada³, Osamu Tokumaru^2,4, Shoichi Tachibana³

¹Med Student, Oita Univ Fac Med
²Dept Neurophysiol, Oita Univ Fac Med
³Div Environ Med, Nat Def Med Coll Res Ins
⁴Fac Welf Health Sci, Oita Univ

【背景と目的】　有人宇宙開発は，ガガーリンによる人類初の宇宙飛行から始まり，現在は米露日欧加の共同により国際宇宙ステーション（ISS）が運用され，宇宙飛行士による長期滞在がなされている。そして今後は火星をはじめとする有人惑星探査の時代が到来することが予想される。有人惑星探査は，ミッションが年単位の長期に及ぶこと，地球からはるか遠い深宇宙への飛行になることなど，ミッションの性質上，今まで以上にクルーとなる宇宙飛行士に精神心理学的課題が生じると考えられ，その対策が求められる。
そこで本研究では，有人惑星探査における精神心理学的課題を明確にし，有人惑星探査に対するシミュレーション実験の結果や類似環境でのデータをもとに，その対策について検討を行った。
【方法】　現在までの有人宇宙開発と有人惑星探査の特徴を比較し，有人惑星探査における精神心理学的課題を明確にし，それに対してシミュレーション実験（MARS-500)，類似環境（南極越冬隊）の研究結果を調査し，その対策の検討を行った。
【結果と考察】　現在までの各ミッションと宇宙飛行士の心理的特徴を比較した結果，有人惑星探査における精神心理学的課題として自立性，隔絶感，ストレス対処方法の乏しさの3点が挙げられた。そこでこれらへの対策として �@ 宇宙飛行士選抜時の精神心理学的適性の確立，�A 適切な訓練内容の確立，�B ミッション中の心理的支援法の確立の3つの観点から検討を行った。�@ については，シミュレーション実験と類似環境の研究結果を用いて精神的安定性，安定した人間関係，自己充足的というキーワードを抽出することができた。自己充足的という観点は，従来考えられてきた宇宙飛行士像には含まれなかった観点であり，有人惑星探査における宇宙飛行士の適性として特徴的な観点であると考えられる。�A については，ISSミッション用に行われている訓練を参考に，有人惑星探査の特殊性に合わせ，ヘルスケアマネジメントに着目した。惑星探査は従来ISSミッションで行われてきた精神科医による面談や，地上管制官によるワークスケジュールの変更等の介入が制限される。そのため，宇宙飛行士自身が問題に対して対処していく必要があると考えられる。メンタルヘルスケアについて，セルフ·ケア，ピア·ケア，ワークスケジュールマネジメントに関する訓練の提案を行った。�B については，ISSで実施されている心理的支援の内容を分析し，よりミッションの性格に合い，実現可能と考えられる心理支援法の提案を行った。ISSミッションと比較し，有人惑星探査ミッションでは，コミュニケーションに関する心理的支援が特に乏しくなること，シミュレーション実験からは自然環境への恋しさが生じることが示唆されたことから，それを補うようなヴァーチャル技術を利用した心理的支援が必要となると考えられる。
【結論】　有人惑星探査における宇宙飛行士の精神心理的課題として3つの課題が挙げられ，それに対する対策を提案した。今度はこれら提案について十分なエビデンスを構築することが求められる。