宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 60, 2015

一般演題

16. 微小重力環境に対する遠心人工重力介入がラットの歩行パターン変化に与える影響

太治野 純一1,伊藤 明良2,3,長井 桃子4,張項凱5,山口 将希2,5,飯島 弘貴2,5,喜屋 武弥5,青山 朋樹1,黒木 裕士5

1京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻運動機能開発学分野
2日本学術振興会特別研究員
3京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座整形外科学
4京都大学大学院医学研究科附属先天異常標本解析センター
5京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻運動機能解析学分野

Alteration of Rats' Gait in Microgravity Could be Attenuated by Centrifugation

Junichi Tajino1, Akira Ito2,3, Momoko Nagai4, Xiangkai Zhang5, Shoki Yamaguchi2,5, Hirotaka Iijima2,5, Wataru Kyan5, Tomoki Aoyama1, Hiroshi Kuroki5

【背景】 遠心重力機器による人工重力(以下AG)は微小重力環境が生体にもたらす変化に対する有効な対抗策と考えられている。しかしその効果検証は筋骨格系に関するものが主であり,動作様式の変化やその裏付けとなる神経機構の変化に注目した研究は少数である。動物実験においては,後肢免荷されたラットの歩容が立脚相において後肢過伸展傾向を呈し,通常荷重へ復帰した後も変化が持続したと報告されている(Canu MH et al. 2005)。一方,通常飼育ラットに対するAG介入の研究では,介入後四肢を通常より屈曲させた歩容を呈したと報告されている(Bouet V et al. 2004)。しかし,微小重力環境が動作様式および神経機構に与える影響を抑制する目的でAG介入を実施した研究は,未だなされていない。本研究では,3次元動作解析装置を用いて,後肢免荷されたラットの歩容変化を評価することを目的とした。またAG介入による歩容変化の抑制効果を評価するとともに,適正な介入量についても展望した。
【方法】 8週齢のWistar系雄性ラットを,尾部懸垂を用いた後肢免荷による2週間の擬似微小重力環境に置いて(HU群),対照群との歩行パターンの相違を観察した。さらに介入群として免荷期間中に60分/日の免荷解除(1 G),遠心重力発生機による各1.5 G 80分/日,2.0 G 60分/日,2.5 G 48分/日の介入を実施する4群を設け,同様に比較した。
【結果】 HU群は対照群と比較して,立脚相において膝および足関節を有意に伸展させる歩容(toe gait)が認められ,また後肢振幅範囲も前方へ偏奇していた。この傾向は免荷期間終了2週間後においても同様に認められた。介入群においては1 G群,2.5 G群においてはHU群と同様の歩行パターン変化が認められた。一方1.5 G,2.0 G群においてはこれらの変化は軽減され,対照群に近い歩行パターンが維持された。
【考察】 微小重力環境によってラットの歩行パターンは正常から逸脱するが,その変化はAGを用いた高荷重介入によって軽減され得ることが明らかとなった。しかし本研究では2.5 G介入では歩行変化の抑制が認められず,介入量における至適範囲の存在が示唆された。今後の研究では,至適介入強度·持続時間および歩行変化の背景となる神経機構の変化の検証が必要と考えられた。