宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 58, 2015

一般演題

14. 空の安全への取り組み多職種からなる小児医療航空搬送コンソーシアムの取り組みから

島袋 林秀

聖路加国際病院 小児医療センター 小児科

Safety of aviation medical transportation−Activities of J-Pmac consisting of various occupation−

Rinshu Shimabukuro

Ambulatory Care Center for Children, St. Luke's International Hospital

患者搬送では地上と上空の環境を問わず「円滑×安全」の確保が重要である。近年日本ではドクターヘリが普及し回転翼機による患者搬送が身近になってきたが,回転翼ではカバーしきれない広域患者搬送では公共交通機関である民間旅客機や新幹線がしばしば利用されている。一般に公共交通機関での患者搬送では慢性期で安定した患者であることが原則だが,疾患の特性や小児医療体制の集約化により小児分野や臓器移植分野では急性期の重症患者であっても公共交通機関の民間旅客機や新幹線に依存せざるを得ないこともある。
民間旅客機を利用した搬送では,医療従事者と航空会社がそれぞれの立場で最大限の労力を注いでいる一方で,空の「円滑×安全」の確保に苦労することがある。そこで我々は2010年に小児患者の民間旅客機搬送の安全性と円滑性の確保に努めることを目的に,小児医療航空搬送コンソーシアム(J-Pmac:Japan Pediatric Air-Transport Consortium)を立ち上げた。小児医療に携わる医療従事者や日本航空と全日本空輸の航空会社搬送担当部署だけなく,民間救急車搬送会社や医療機器企業等の多職種からコンソーシアムは構成され,宮坂勝之氏が座長,阪井裕一氏および島袋林秀が幹事を務めている。小児医療の特徴や背景の共有,搬送医療の特徴,医療機器·バッテリーの機内持ち込み問題,搬送実態調査と小児航空搬送事例の検討,臓器移植搬送や海外の航空機搬送の現状,自衛隊での搬送状況など今まで13回にわたる包括的な話し合いや調査を重ねた結果,職種によって安全性と円滑性の価値観に相違があることなど医療従事者側と航空会社側がそれぞれの事情に理解を深めることで解決·配慮できる問題も多かった。また,航空搬送に適した医療機器の開発の必要性,地上搬送から航空搬送への連携の煩雑さ,搬送後復路の機材の問題など単に医師や航空会社のみでは解決できない問題も存在することも明らかになった。さらに,コンソーシアムを通じて今まで交流の少なかった日本航空と全日本空輸の担当部署が会社の垣根を越えて強い連携を築く機会にもなった。
広域搬送手段が十分整備されていない日本においては公共交通機関の旅客機に依存せざるを得ないために,1)医師への航空医学の周知,2)搬送実態の公的調査,3)広域搬送をコーディネートする機関の設立,4)搬送による航空会社の遺失費用の負担など今後の課題は多い。格安航空会社(LCC)の進出で民間航空会社間で熾烈な競争が強いられる中,「安全x円滑」な患者搬送を行うためには,メガキャリアフラッグが行っているこのような社会的役割について関心を持つことがより一層必要である。