宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 57, 2015

一般演題

13. 液体クロマトグラフィ/質量分析(LC/MS/MS)法を用いた航空事故調査における薬剤分析

鳥畑 厚志,藤田 真敬,丸山 聡,高澤 千智

航空自衛隊 航空開発実験集団 航空医学実験隊 第2部

Toxicological Analysis using Liquid Chromatography/ Mass Spectrometry(LC/MS/MS) in Aviation Accident Investigations

Atsushi Torihata, Masanori Fujita, Satoshi Maruyama, Chisato Takazawa

Second Division, Aeromedical Laboratory, Air Development and Test Command, Japan Air Self-Defense Force

【背景】 航空事故調査において事故当事者の血液や尿の薬剤分析は必須であり,国際民間航空機構(ICAO)はこの薬剤分析にガスクロマトグラフィ/質量分析(GC/MS)法を推奨している。GC/MS法は化学物質の同時多数分析が可能であり,科学的信頼性も高く分析結果は裁判の証拠として採用される。一方,検体の気化を要するため,分析対象は揮発性かつ熱安定性物質に限られ,難揮発性,熱分解性物質の分析には不適であった。
近年登場した液体クロマトグラフィ/質量分析(LC/MS)法はこの弱点を補い,液体検体を常温で分析可能である。LC/MS法の登場により難揮発性や熱分解性物質の分析が,GC/MS法と同レベルで可能となった。生体内の薬剤や代謝物には難揮発性や熱分解性物質が多く含まれるため,薬剤分析においてはLC/MS法への移行が進んでいる。米国連邦航空局 民間航空医学研究所(Federal Aviation Administration-Civil Aerospace Medical Institute: FAA-CAMI)でも既にLC/MS法の改良型であるLC/MS/MS法を導入している。これを受けて航空医学実験隊でも航空事故調査にLC/MS/MS法を使用するため,LC/MS/MS法の使用に必要な対象薬剤の選定及び薬剤ライブラリー(固有波形や至適条件)の構築を進めている。
【目的·方法】 分析すべき薬剤は無数にあり,これら全ての固有波形や至適条件を網羅した薬剤ライブラリーの構築は難しい。そこで,LC/MS/MS法の使用を目的に優先度順の薬剤の選定を行った。米国民間航空事故の検出薬149種及び航空機の操縦能力を低下させると思われる運転禁止注意薬462種を含む529種の薬剤に注目し,それら薬剤から日本国内の流通及び国内市販薬(OTC薬)を考慮して選定を試みた。
【結果·考察】 米国民間航空事故検出薬(運転禁止注意薬82種含む)のうち,以下に示す重要と思われる国内市販薬(OTC薬)20種(運転禁止注意薬7種含む)を選定し,これら選定薬剤のライブラリーを構築中である。今後この薬剤ライブラリーの範囲を広げていく予定である。
選定20種(成分名および商品例で示す):アセトアミノフェン(バファリンルナ®J),イブプロフェン(エスタックイブ®),エフェドリン塩酸塩(エスタック®総合感冒),塩酸メクリジン(トラベルミン®),塩酸ヨヒンビン(ガラナポーン),オキシメタゾリン塩酸塩(ナシビン®M),クロルフェニラミンマレイン酸塩(エスタックイブ®),サリチルアミド(新エスタック®W),ジフェンヒドラミン(ドリエル®),シメチジン(ザッツブロック®),セチリジン(コンタック鼻炎®Z),テオフィリン(ミコルデ®錠),デキストロメトルファン(エスタック®総合感冒),トリプロリジン塩酸塩水和物(ベネン®),ニザチジン(アシノ®Z),ファモチジン(ガスター®10),フェキソフェナジン(アレグラ®FX),フェニラミンマレイン酸塩(アネロンニスキャップ®),プソイドエフェドリン(ベンザブロック®L),ラニチジン塩酸塩(大正エスブロック®Z)。