宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 56, 2015

一般演題

12. 服薬の副作用と飛行機の操縦に関する調査報告

高澤 千智,藤田 真敬,丸山 聡,大類 伸浩,鳥畑 厚志

航空自衛隊 航空開発実験集団 航空医学実験隊 第2部

Report on Aeromedical Decision Making for Medicated Aviators

Chisato Takazawa, Masanori Fujita, Satoshi Maruyama, Nobuhiro Ohrui, Atsushi Torihata

Second Division, Aeromedical Laboratory, Air Development and Test Command, Japan Air Self-Defense Force

近年,薬剤の副作用による能力低下から生じる航空事故や交通事故が問題となっている。2013年,米国連邦航空局(FAA)は,航空事故の多発を受けパイロットの服薬への注意喚起を行った。我が国の総務省も,同年に薬剤の添付文書への運転等禁止·注意の記載見直しを勧告(「医薬品等の普及·安全に関する行政評価·監視結果報告書」2013年3月,総務省)している。
航空医学実験隊では,かねてよりパイロットの服薬に関する調査を行ってきたが,改めて最新情報をまとめた。impaired performance, impaired driving, 運転等禁止·注意薬等のキーワードを用いて服薬と飛行に関する資料を調査した。
薬剤性能力低下(drug induced impaired performance)に関し,運転能力低下薬 (driver-impairing medication)と操縦能力低下薬(potentially impairing drugs)について報告を見ることができる。運転能力低下薬は,米国家道路交通安全局(NHTSA)により定義され,事故データが豊富で概念が確立している。我が国における運転等禁止·注意薬と同義である。操縦能力低下薬は,米国家運輸安全委員会(NTSB)により定義されているが,情報が少なく,運転能力低下薬の概念をもとに議論されている。
能力低下を生じる副作用には,中枢神経,循環器,感覚器系(視覚)への作用があり,操縦に影響を及ぼす副作用は,前記の作用に加え,感覚器系(聴覚)と呼吸器系への作用とされる。服薬と飛行に関して,疾患が許容内であっても,航空医学の観点から,副作用が飛行安全維持に悪影響を及ぼさないかを判断する必要がある。
能力低下薬の服用中は,パイロットは原則として航空業務停止となる。症状の軽快を得た場合には最終服薬の薬効消失を待ち航空業務可能とする。薬効消失時間はFAAでは半減期もしくは投与間隔の5倍,国土交通省,NTSBでは投与間隔の2倍としている。航空医学実験隊では,各種見解の最大値である,半減期の5倍を目安に,防衛省内に提言を行っている。
新薬は,市販後調査による副作用情報が確立するまでパイロットの使用は許可されない。その期間は米空軍で販売から3-5年以上,FAA及び国土交通省で1年であり,航空自衛隊は,国土交通省に準じて1年としている。航空自衛隊が米空軍より短いのは,日本の新薬の多くが,海外で普及済であり海外情報を参考にできるためと考えられる。
航空医学実験隊は平成11年より「パイロットの服薬に関する研究成果報告書」を発刊し,現在平成27年度版まで改訂されている。構成は,航空自衛隊における過去の判定基準を反映させた疾患概説と薬剤の航空業務リスク区分一覧から成る。本書の改定に合わせて最新情報を反映させたい。