宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 53, 2015

一般演題

9. 宇宙航空医学認定医制度の現状と展望

川島 紫乃1,2,相部 洋一1,3,藤田 真敬1,4,緒方 克彦1,5

1宇宙航空医学認定医認定委員会事務局
2株式会社 エイ·イー·エス
3有人宇宙システム 株式会社
4航空自衛隊 航空開発実験集団 航空医学実験隊
5宇宙航空研究開発機構

Board Certification System for Aerospace Medical Specialist in Japan Society of Aerospace and Environmental Medicine (JSASEM)

Board Certification System for Aerospace Medical Specialist in JSASEM

Shino Kawashima1,2, Yoichi Aibe1,3, Masanori Fujita1,4, Katsuhiko Ogata1,5

1Office of Board Certification Committee, JSASEM
2Advanced Engineering Services Co., Ltd.
3Japan Manned Space Systems Corporation
4Aeromedical Laboratory, Air Development and Test Command, Japan Air Self-Defense Force (JASDF)
5Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA)
宇宙航空医学認定医制度は,本学会の名誉会員,谷島一嘉先生が,航空身体検査指定医への航空医学専門教育の提供のため自ら活動を始められたことを源とし,2004年に発足した。欧米では,宇宙航空医学は予防医学の一分野として,医学教育のカリキュラムに含まれるが,我が国では,航空自衛隊ですでに500名もの「航空医官」が養成されているものの,宇宙と航空を通じて一元的に「宇宙航空医学専門医」を教育する場が数少ない。そこで我々は,米国の「フライトサージャン制度」,つまり「宇宙航空医学専門医制度」を参考に,我が国初の“宇宙航空医学の一元的教育カリキュラム”を設立した。
年1回開催する宇宙航空医学認定医講習会では,医師免許取得者を対象に,「宇宙航空医学概論」「ヒューマンファクター」「宇宙医学」「航空生理学(低圧体験含む)」「臨床航空医学」等の講義を行う。米国のカリキュラムでは,当該範囲を5週間かけて行うのに対し,本カリキュラムでは,内容を洗練化することで3日間の講義で対応している。また,低圧体験や宇宙医学研究施設の見学等,実体験型の講習内容を含めていることは,受講者に好評である。一方,「宇宙開発予算」「宇宙食·薬学」「宇宙物理学」「宇宙法規」等,現時点において未だカリキュラムにて取りこめておらず,今後の課題である。
当講習会は低圧施設が借用できなかった2007年及び東日本大震災が発生した2011年を除き毎年開催している。認定医も毎年約20名ずつのペースで着実に増加し,現在は約150名規模までとなった。認定医の活躍の場は,臨床医,研究職,産業医,またフライトサージャン,宇宙飛行士,国際線パイロットなど多領域に亘る。
認定資格の更新は5年ごととしており,更新には一定のポイント数(30 P)を必要とする。
ポイントは,宇宙航空環境医学会年次大会への参加(10P)や発表(5 P),当学会誌への論文投稿(筆頭10P,共著3P)など,学会の関連活動への参加に応じて付与される仕組みとしている。ポイント数不足のために,やむなく資格更新を断念せざるを得ない認定医が一定数存在することは,今後取り組んでいくべき課題の一つである。事務局では対策の一環として,更新の1年前に該当者への通知を行うなどの取り組みを開始したところである。
また,我々はさまざまな形で宇宙航空医学を広める活動をしてきた。例えば,認定医セミナー/推奨セッションを学会大会に設置し,認定医のみならず広く学会員に対し航空宇宙医学の知識を高める場を提供してきた。さらに今年は,認定医講習会で用いてきたテキストを,内容をより充実化したうえで,書籍「宇宙航空医学入門」として発刊するに至った。
今後は,先述したように,本カリキュラムをより充実化していくことが必要である。また,将来的には,認定医講習の受講資格を,看護職や歯科医師等にまで拡大していくなどの検討も,必要とされるかもしれない。
我々は,「認定医」の付加価値をさらに高めるべく,関係機関との連携強化活動等を継続していきたいと考えている。