宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 47, 2015

一般演題

3. 圧変動性めまい(alternobaric vertigo)を伴ったスクーバダイバーの耳管機能について

北島 尚治1,2,北島 明美1,3,北島 清治1

1北島耳鼻咽喉科医院
2東京医科大学 耳鼻咽喉科
3聖マリアンナ医科大学 耳鼻咽喉科

A Study of the Eustachian Tube Function in SCUBA Divers with Alternobaric Vertigo

Naoharu Kitajima1,2, Akemi Sugita-Kitajima1,3, Seiji Kitajima1

1Kitajima ENT Clinic
2Department of Otolaryngology, Tokyo Medical University
3Department of Otolaryngology, St. Marianna University School of Medicine

【はじめに】 近年,海洋スポーツの流行に伴いダイビング後のトラブルが増加傾向にある。圧変動性めまい(alternobaric vertigo; AV)は中耳腔の相対的陽圧化によって生じ数分で症状消失する一過性のめまいでスクーバダイバーの約3割が経験すると報告されている。蝸牛水管を介し伝わった内耳圧変化によって前庭反応が生じ,耳管機能障害との関連性が高いとも言われる。
【対象と方法】 症例はAVを診断したダイバー患者15例である。正常ダイバー20例および,めまいのないダイバー患者29例をコントロールとした。ダイバー患者の治療には,耳管機能の改善に抗アレルギー剤,ステロイド点鼻薬を用い,めまいの自覚の強い場合は抗めまい薬を用いた。症状が短時間のものをTransient AV,長期間に及ぶものをPersistent AVと分類し,それぞれの耳管機能をコントロール群と比較検討した。AV患者は治療後のAVの有無についても検討した。
【結果】 15例中7例がTransient AV,8例がPersistent AVだった。初診時,Persistent AV患者のうち3例で健側に向かう微細な水平性眼振を認め,嚥下時に眼振が増強する傾向にあった。正常ダイバー群と比して,AVの有無を問わず有意にダイバー患者群の耳管機能は低く,AV群のほぼ全例で耳管狭窄症を認めた。1例で滲出性中耳炎による伝音難聴を認めたが,残り14例全てで蝸牛症状を認めなかった。検査を施行できた全例で瘻孔現象を認めなかった。全症例が治療により症状軽快し,治療後ダイビングを再開した10例中9例でAVを生じず,1例もわずかに浮遊感を自覚した程度で軽症であった。
【考察】 ダイビング後にめまいを生じた患者の診断において鑑別に苦慮する疾患は,内耳気圧外傷と内耳型減圧症,そして今回報告したAVである。耳管機能障害を有するダイバーは中耳圧調節が不良のため浮上時にAVを生じる。Persistent AVは耳管機能障害による内外リンパ圧差の改善遅延に加え,Toynbee現象による影響,および出血など軽度の内耳気圧外傷を合併するために症状が持続するのだろう。AVの再発防止にはアレルギー性鼻炎や耳管機能障害の改善,および自身の能力に見合った安全なダイビングを行うことが重要と考えた。
(Kitajima N et al. Altered Eustachian Tube Function in SCUBA Divers With Alternobaric Vertigo. Otol Neurotol. 35(5) :850-6;2014)