宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 4, 46, 2015

一般演題

2. 南極越冬隊員の平衡感覚の推移

長谷川 達央

綾部市立病院 耳鼻咽喉科

The change in equilibrium function in the Antarctic wintering team

Tatsuhisa Hasegawa

Ayabe City Hospital

第54次南極越冬隊員の越冬前·越冬中の平衡感覚について検討した。23名の健常成人(26-53歳,男性22名,女性1名)に対し,足圧中心のデータ採取を行った。出国前に1回と越冬開始の2013年2月より毎月1回,2014年1月まで計13回データ採取を実施した。足圧中心測定は開眼·閉眼の条件で両手を体側にたらした状態で,足をつま先までそろえて立ち,各1分間計測した。動揺面積(ENV AREA)と単位面積当たりの軌跡長(LNG/AREA)を比較検討した。全被験者のデータをまとめると,開眼条件では出国前に比して越冬中は有意に動揺面積が増大していた。それに対し,閉眼条件では出国前と越冬中の間で動揺面積の有意な変化を認めなかった。開眼·閉眼両条件において,単位面積当たりの軌跡長の有意な短縮を認めた。この変化は越冬期間内では有意な変動を示さなかった。
この変化が生じた原因について,寒冷環境による固有知覚器の感覚低下と雪に覆われた極地の環境による視覚情報の低減により,体性感覚·視覚への依存を減らすべく適応した結果ではないかと考察した。