宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 3, 31-37, 2015

総説

医学研究における倫理的配慮について

三浦 靖彦

東京慈恵会医科大学附属柏病院 総合診療部

Ethics for Medical Research

Yasuhiko Miura

Jikei University School of Medicine, Kashiwa Hospital, Department of General Medicine

ABSTRACT
 In recent years, fraud problem has been attention in medical research.
 Also a member of the Japan Society of Aerospace and Environmental Medicine carry out medical research, in particular, those often to undertake research since medical student.
 Therefore, in this paper, about the ethical issues in medical research, from its history, up to the current guidelines, are reviewed.
(Received:1 December, 2015 Accepted:12 December, 2015)
Key words:Research ethics, Medical research, Ethics guideline, Declaration of Helsinki

はじめに
 何故「研究倫理」が必要とされるのだろうか? 良い研究とは? FINERを満たしていることが大切であると言われている1

F  (Feasible)実行可能性
I  (Interest)興味深さ
N  (Nobel)斬新さ
E  (Ethical)倫理的であること
R  (Relevant)有意義さ

つまり,良い研究であるためには,「倫理的であること」は,必須条件である。
なぜかというと,

 ・ 従来,数多くの非倫理的,または,倫理的妥当性が疑わしい研究が行われてきた。
 ・ 良い意図で計画・実施されても,結果的に研究参加者に大きい害を与えた研究が存在した。
 ・ 研究を実施する当事者だけでは,研究計画の科学的倫理的妥当性を冷静に判断できないから。
 ・ 研究者の社会的信頼が大切だから。
   ・ 研究という行為自体に倫理的問題が含まれるから。
  ・ 研究者は一個人として多様な利害関心(interests)を持っているから。

など,多くの理由があげられる。
 医学の発展のためには,基礎研究・動物実験・人体実験(臨床試験)が求められるが,その際,動物・ヒトの尊厳が守られることが必要であり,動物実験においては,3Rの法則2(後述)が謳われており,一方,ヒトを対象とした試験においては,「個人の尊厳」が保障されるべきであり,被験者は搾取や強制から守られなくてはならない。
 今回は,誌面をお借りして,本学会会員にとって,知っておくべき研究倫理の概要について解説させていただく。

研究倫理における歴史的出来事
 研究倫理の概念に影響を与えた医学的事実を挙げてみる。これらは,当時から問題になった場合もあり,後世になって問題視され,研究倫理を再構築する原動力になった事件等もある。
 エドワード・ジェンナー
1749年5月17日〜1823年1月26日
近代免疫学の父
 1796年,使用人の子である8歳の少年に牛痘を接種した。少年は若干の発熱と不快感を訴えたがその程度にとどまり,深刻な症状はなかった。6週間後にジェンナーは少年に天然痘を接種したが少年は天然痘にはかからず,牛痘による天然痘予防法が成功した。
 ゲルハール・ヘンリック・アルマウェル・ハンセン
1841年7月29日〜1912年2月12日
 1873年,ハンセン病が感染症だと疑っていたハンセンは,ハンセン病の症状を呈していた患者の体液を採取して,それを別の入院中の患者に接種し,その患者が本当にハンセン病を発症するかどうか実験をした。ハンセンは,この実験が問題視されて臨床医の免許を剥奪された。
 ルイ・パスツール
1822年12月27日〜1895年9月28日
 1885年,犬を対象に作成されていた狂犬病に対する弱毒生ワクチンを,犬にかまれた少年に投与した。

 上記の出来事は,まだ研究倫理という概念が成立する以前の出来事であり,結果的に,病気や治療法の開発につながっていることから,「倫理的な問題」を秘めた研究であるという受け取られ方は薄かったかもしれないが,現代の常識で考えてみると,明らかに倫理的問題を含んだ出来事であることが理解されよう。
 さらに,戦争が絡んでくると,研究者の倫理観や正義感も麻痺するのか,抑圧されるのか,数々の出来事が起こる。
 日本陸軍731部隊
 満州事変勃発翌々年の1933(昭和8)年8月に中国東北部ハルピン近郊に旧日本陸軍が創設した特殊部隊の略称である。部隊には,日本医学界のエリート達が集められ,3,000人とも6,000人ともいわれる,マルタと呼ばれる捕虜を使って,細菌兵器や毒ガスの効果を試す人体実験や,生体解剖が行われていたという。
 ナチスドイツによる数々の人体実験
 一般的には,虐殺行為として意識されているかもしれないが,数多くの医学実験と称した非人道的な行為が行われた。
超高度実験,低体温実験,マラリア実験,毒ガス実験
サルファ剤治療実験,海水飲用実験,流行性黄疸(肝炎)実験
断種実験,毒物実験,焼夷弾治療実験
ユダヤ人骨標本コレクション,障害者の「安楽死」など
 米国 マンハッタン計画 
 第二次世界大戦中,枢軸国の原爆開発に焦ったアメリカ,イギリス,カナダが原子爆弾開発・製造のために,科学者,技術者を総動員した計画。妊婦にプルトニウムを注入したり,学生に放射性の含まれたオートミールを与える,胃がん患者に大量のプルトニウムを注入するなど,自国民を使って放射線の影響を調べる人体実験が秘密裏に行われた。
 大戦後,上記の非倫理的行為に対する反省から,後述する倫理綱領などが相次いで制定されるが,その一方で,非人道的な医学研究は収まることはなかった。
 米国におけるタスキギー事件
 研究倫理の歴史上でも,非常に有名な事件である。
 1934〜72年にかけてアラバマ州タスキギーで,黒人男性約600人を対象に米国連邦政府公衆衛生局が行った梅毒研究。
 約40年間にわたって,梅毒患者の病状変化を調査するため,治療方法が確立した50年代以降も,積極的な治療処置は一切行わず,ペニシリンなどの抗生物質の使用も差し控えた。
 患者には「無料の」治療を行うと伝え,食事を提供し,死後の葬儀費用も負担した。患者の死後,データ作成のため解剖が行われた。

また,近年の国内においても,
 ・ 東大論文不正事例(2013年)
 ・ 降圧薬の論文にまつわる事例(2013年ディオバン事件)
 ・ STAP細胞に関する事例(2014年)
など,医学研究に対する一般の信頼を貶める事例は,枚挙に暇が無い。



医学研究における倫理綱領の制定
 上記の,非倫理的な医学実験の存在が明白となり,これを抑圧するために,その後,時代と共に,各種の医学実験に対する倫理綱領が制定された。
 ニュルンベルグ綱領3 1947年
 対ナチス的色彩が強く,非倫理的な人体実験の抑制を想定している。研究への参加の自由(自発的な同意)を強調した内容である。
 ・ 研究を実施する当事者だけでは,研究計画の科学的倫理的妥当性を冷静に判断できないから
  1. 被験者の自発的な同意が絶対的に必要である
  2. 実験は,社会の福利のために実り多い結果を生むとともに,他の方法や手段では行えないものであるべきであり,無計画あるいは無駄に行うべきではない。
  3. 予想される結果によって実験の遂行が正当化されるように,実験は念入りに計画され,動物実験の結果および研究中の疾患やその他の問題に関する基本的な知識に基づいて行われるべきである。
  4. 実験は,あらゆる不必要な身体的,精神的な苦痛や傷害を避けて行われるべきである。
  5. 死亡や障害を引き起こすことがあらかじめ予想される場合,実験は行うべきではない。ただし,実験する医師自身も被験者となる実験の場合は,例外としてよいかも知れない。
  6. 実験に含まれる危険性の度合いは,その実験により解決される問題の人道上の重大性を決して上回るべきではない。
  7. 傷害や障害,あるいは死をもたらす僅かな可能性からも被験者を保護するため,周到な準備がなされ,適切な設備が整えられるべきである。
  8. 実験は,科学的有資格者によってのみ行われるべきである。実験を行う者,あるいは実験に従事する者には,実験の全段階を通じて,最高度の技術と注意が求められるべきである。
  9. 実験の進行中に,実験の続行が耐えられないと思われる程の身体的あるいは精神的な状態に至った場合,被験者は,実験を中止させる自由を有するべきである。
 10. 実験の進行中に,責任ある立場の科学者は,彼に求められた誠実さ,優れた技能,注意深い判断力を行使する中で,実験の継続が,傷害や障害,あるいは死を被験者にもたらしそうだと考えるに足る理由が生じた場合,いつでも実験を中止する心構えでいなければならない。
 ヘルシンキ宣言4
 世界医師会(WMA)は,1964年のヘルシンキ宣言以降,順次改正を繰り返しながら,治療的研究も視野に入れた綱領を発表している。
2013年フォタレザ(ブラジル)版が最新,35項目から成る。
「被験者の利益は社会的な利益よりも常に優先されなくてはならない」
「臨床研究のあらゆる対象者は現存する最良の治療を受けられなければならない」
研究倫理審査委員会設置の必要性」等が述べられている。
 ベルモント・レポート3 1979年
 ビ―チャーにより米国内での数多くの非人道的医学研究が朝かれたことを機に,1974年,医学研究全般にわたる規制を目指す初の法律となった国家研究法(National Research Act)が成立。この中で,初めて,研究倫理委員会(IRB)の設置が謳われた。この動きが結実したものがベルモント・レポートで,「被験者保護のための倫理原則およびガイドライン」が制定された。
診療と研究の境界
基本的倫理原則(人格尊重・恩恵・正義)
適用(インフォームドコンセント・リスクと利益の評価・対象者の選択)等が述べられている。
 CIOMS(国際医科学評議会)による「人を対象とする生物医学研究の国際倫理指針」5 1982年〜
 ヘルシンキ宣言に謳われた医学研究に対する指針を,とくに発展途上国において適用する際の懸念を述べるとともに,それらの国々における医学研究の状況やニーズ,ならびに,それらの国々が参加する可能性のある多国間研究もしくは多国籍研究に対する示唆を与えている。

我が国における臨床研究に対する倫理指針
厚生労働省・文部科学省:疫学研究に関する倫理指針(2002)
厚生労働省:臨床研究に関する倫理指針(2003)
文部科学省・厚生労働省:人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(2014)6
 わが国においては,上記疫学研究指針と臨床研究指針が適用されてきたが,近年の研究の多様化に伴い,両指針の適用関係が不明確になってきたことや,研究をめぐる不適正事案が発生したこと等を踏まえ,整合性を図るうえで,両指針を統合し,理解しやすい内容に改められた。研究実施者は精読しておく必要がある。

研究倫理の原則について
 ベルモントレポートで謳われている,基本的倫理原則について概説する。
 1. 人格尊重(Respect of Persons)
 2. 善行(Beneficience)
 3. 正義(Justice)

1. 人格尊重の原則(Respect of Persons)
 ・ ヒトを単なる道具として取り扱ってはならない
 ・ 個人は自律的な行為者である
 ・ 判断能力を備えた被験者が十分な説明を受け,強制されない場合,その被験者はある程度危険な研究に参加できる
 ・自律性が低下したヒトは保護される必要がある
 ・ 人格尊重を端的に表わすものが,インフォームドコンセント取得である(ヘルシンキ宣言22項)。
 ・ ヒトを対象とする研究はすべて,それぞれの被験者に対して,目的,方法,資金源,起こりうる利害の衝突,研究者の関連組織とのかかわり,研究に参加することにより期待される利益及び必然的に伴う不快な状態について十分な説明がなされなくてはならない。
 ・ 対象者はいつでも報復無しにこの研究への参加を取りやめ,または参加の同意を撤回する権利を有することを知らされなければならない。

 研究における守秘義務も,人格尊重の範疇とされている。
 臨床現場と同様,被験者には自らの医療情報に関するプライバシーの権利を有する。
 プライバシー保護のため,研究者は被験者から個人の医療情報を研究目的で利用することについて,必ずインフォームドコンセントを得なければならない。
 匿名化(連結可能匿名化・連結不可能匿名化)を行うことが望ましい。
 情報の内容,扱い方,保管方法,破棄の時期及び方法を事前に決めておく必要がある。

2. 善行原則(Beneficience)
 被験者が研究に参加することで危害などの身体的・精神的リスクを負わないことを保証し,被験者の福利(well-being)を確保すること。
危害を与えないこと(Do not harm)
危害を最小限にして利益を最大限にすること
危険性が利益を上回るとわかった場合は直ちに研究を中止する必要がある。
3. 正義原則(Justice)
 誰が研究の利益に預かり,誰がその負担を負うのか。
 どのような観点から利益と負担を配分するかの議論が必要。

 ベルモントレポートによる基準
各人に等しく配分する
各人のニーズに応じて配分する
各人の努力に応じて配分する
各人の社会貢献に応じて配分する
各人の利益の大きさに応じて配分する
 正義原則によって被験者の選択における公平な手続きが要求される。
 個人的レベルの正義として,研究者が特定の個人に便宜を図ることや逆に不当な危険が伴う研究を行うべきでない。
 社会的レベルの正義として,特定の集団や階層に被験者が偏らないようにすること。特に社会的弱者への配慮が必要

 研究に求められる倫理的配慮について,Emanuel は,以下の7項目を紹介しており,理解しやすいので,列挙する7
 1. 社会的・科学的価値(Social or Scientific Value)
 2. 科学的妥当性(Scientific Validity)
 3. 適正な被験者選択(Fair Subject Selection)
 4. 適切なリスク・ベネフィットバランス(Favorable Risk-Benefit Ratio)
 5. 第三者による独立した審査(Independent Review)
 6. インフォームド・コンセント(Informed Consent)
 7. 候補者および被験者の尊重(Respect for Potential and Enrolled Subjects)

 また,特別な配慮を要する場合については,(Bioethics Today BMA2004)に以下のように述べられており,注意を要するところである8
*社会的に弱い立場にある研究参加者(vulnerable/special participants)に対する配慮
精神疾患を持つ人,子供,胎児・胚,脳死患者,患者
(研究対象者)本人に意思決定能力が無く,研究参加についての同意を得られない場合。
施設収容者など同意の「自発性」の保障が難しい場合
救急救命医療に関わる臨床研究の場合(emergency, resuscitation, intensive care, etc)
末期患者・重症患者等,「他に選択肢が無い」場合

 ここで,問題となるのは,本学会所属の会員が実施する可能性の高い医学実験においては,被験者数が少なく,匿名化しても,ある程度対象者が憶測されてしまい,不利益を被る可能性がある点である(日本人宇宙飛行士や航空会社所属のパイロット,医学生等)。そのような場合,どう対処すべきであろうか。
 医学的価値から考えると,特徴ある小集団の医学データを収集・解析することは,後世の医学の発展のため,また,対象とした小集団の将来的な利益に還元するために,必要な研究である場合がある。
 したがって,その世な場面では,研究実施の際に,包括同意だけでなく,研究の目的,公表の形式,その影響も含め,事前に被験者に伝え,承諾を得ておく。公表前に,最終結果の形式を被験者に伝え,承諾を得ることなどが必要であると考えられる。特に,見えない圧力をかけていないか等に注意することにより,これらの研究を実施する倫理的正当性を確保することができる。

 また,教職に就く学会員も多いが,学生を対象とした研究にも注意を要する。教育の一環として実施されたアンケートや教育効果についての発表が散見されるが,インフォームドコンセントを得ずに実施される場合,参加の拒絶が保障されておらず,好ましくない研究方法であるとみなされる。
 研究倫理審査委員会での審査時においても,収集するデータの内容,公表の形式,その影響も含め詳細に審査を行い,不足の点については,訂正を求めるなどの対応が求められる。


動物実験に関する倫理的配慮
 本学会員の場合,動物を対象とした実験に従事する会員の方も多いであろうと思われるので,動物実験に関する倫理的事項についても概説する。
 まず基本となるのは,動物の生命の対する畏怖の念であるが,これは,ペットにおいても,実験動物においても同様であり,根底には動物愛護の精神が順守されるべきであるため,「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」の第1の部分を以下に示す。

 動物の愛護の基本は,人においてその命が大切なように,動物の命についてもその尊厳を守るということにある。動物の愛護とは,動物をみだりに殺し,傷つけ又は苦しめることのないよう取り扱うことや,その習性を考慮して適正に取り扱うようにすることのみにとどまるものではない。人と動物とは生命的に連続した存在であるとする科学的な知見や生きとし生けるものを大切にする心を踏まえ,動物の命に対して感謝及び畏敬の念を抱くとともに,この気持ちを命あるものである動物の取扱いに反映させることが欠かせないものである。人は,他の生物を利用し,その命を犠牲にしなければ生きていけない存在である。このため,動物の利用又は殺処分を疎んずるのではなく,自然の摂理や社会の条理として直視し,厳粛に受け止めることが現実には必要である。しかし,人を動物に対する圧倒的な優位者としてとらえて,動物の命を軽視したり,動物をみだりに利用したりすることは誤りである。命あるものである動物に対してやさしい眼差しを向けることができるような態度なくして,社会における生命尊重,友愛及び平和の情操の涵養を図ることは困難である。

 そのうえで,実験動物を使用した医学実験を行うに当たっては,基本原則として『動物実験に関する3Rの原則(3Rs)』が謳われている。
 Replacement(代替法の利用)
 科学上の利用の目的を達することができる範囲において,できる限り動物を使用する方法に変わり得るものを利用すること
 Reduction(使用動物数の削減)
 科学上の利用の目的を達することができる範囲において,できる限りその利用に供される動物の数を少なくすること
 Refinement(苦痛の軽減)
 その利用に必要な限度においてその動物に苦痛を与えない方法によってすること

 また,CIOMSでは,「医学生物学領域の動物実験に関する国際原則」も公表しているが11),国内では,日本学術会議が「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン(2006年6月1日)」を発行し,基本姿勢についてわかりやすく解説しているので,一読を要する。
 特に,動物実験計画の立案時に検討を要する事項について下記に示す。
 ・ 動物実験の不要な繰り返しにあたらないかどうか
 ・ in vitroの実験系および系統発生的に下位の動物種への置き換えが可能かどうか(代替法の活用)
 ・ より侵襲の低い動物実験方法への置き換えが可能かどうか
 ・ 使用する実験動物種ならびに遺伝学的および微生物学的品質
 ・ 使用する実験動物の数
 ・ 動物実験実施者および飼養社に対する教育訓練の実績
 ・ 特殊なケージや飼育環境を適用する場合はそれが必要な理由
 ・ 実験処置により発生すると予想される障害や症状および苦痛の程度
 ・ 実験動物にとって耐え難い苦痛が予想される場合の苦痛軽減処置
 ・ 鎮静,鎮痛,麻酔処置
 ・ 大規模な外科的処置の繰り返しに当たらないかどうか
 ・ 術後管理の方法
 ・ 実験動物の最終処分方法(安楽死の方法など)
 ・ 人および環境等に影響を与える可能性のある実験動物であるかどうか。該当する場合は,必要な処置及び手続等
 ・ 動物実験実施者,飼養者の労働安全衛生に係る事項

研究データの信頼性について
 近年の相次ぐ研究不正を受け,透明性の確保が強く問われていることを忘れないでほしい。特に人を対象とする場合,最新の倫理指針では,モニタリングや監査を徹底することが強く求められている。データの信頼性については下記のALCOA12),およびCCEA13)が大切であると言われているので,是非参考にしてほしい。
 Attributable(帰属性)
だれが,いつ作成,修正したか
 Legible(見読生)
いつでも見ることができる
 Contemporaneous(同時性)
発生と同時に作成・修正すること
 Original(原本性)
最初に記録されたものであること
 Accurate(正確性)
事実と変わらない
 Complete(完結性)
第三者が見て内容が妥当であると納得できる記載であること
 Consistent(矛盾がない)
記述記載と矛盾がある場合には,その理由を明確にすること
 Enduring(永続性)
黒・紺色ペンで作成・修正
経時的劣化する感熱紙等は用いない
 Available when needed(必要時に取り出せる)
各種記録・帳票は容易に点検・検索できなくてはならない

 以上の基本原則を理解したうえで,医学研究を遂行していただきたいが,最後に,『医学研究において,絶対してはいけないこと』を列挙する。

 ・ 存在しないデータ,研究結果等を作成する(捏造)。
 ・ 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い,データ,研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工する(改ざん)。
 ・ ネットで検索した他の人の文章を切り貼りして,自分のレポートにする(盗用)。
 ・ 研究会等で聞いた他人のアイデアを使い,自らのアイデアとして,実験を実施する(盗用)。
 ・ 実験ノートを作成していない(信頼性・透明性の問題)。


文 献

1)木原雅子,木原正博 監訳:医学的研究のデザイン─研究の質を高める疫学的アプローチ─,第三版,メディカルサイエンスインターナショナル,東京,2009.
2)W.M.S. Russel. and R.L. Burch.:The Principles of Humane Experimental Technique, 1995.
http://altweb.jhsph.edu/pubs/books/humane_exp/het-toc
3)笹栗俊之:シリーズ生命倫理学,第15巻 医学研究(第二章;倫理原則と指針),シリーズ生命倫理学編集委員会編。丸善出版,東京,2012.
4)日本医師会:ヘルシンキ宣言,
http://www.med.or.jp/wma/helsinki.html
5)International Ethical Guidelines for Biomedical Research Involving Human Subjects. (Council for International Organizations of Medical Science:CIOMS),国際医科学団体協議会.
http://www.cioms.ch/index.php/publications/printablev3/541/mdownload/19/international-ethical-guidelines-for-biomedical-research-involving-human-subjects?efileid=20
6)文部科学省,厚生労働省:人を対象とする医学系研究に対する倫理指針,2014年12月22日.
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1443_01.pdf#search=‘%E4%BA%BA%E3%82%92%E5%AF%BE%E8%B1%A1%E3%81%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E7%B3%BB%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%80%AB%E7%90%86%E6%8C%87%E9%87%9D’
7)Emanuel EJ., Wendler D., Grandy C.:What makes clinical research ethical ?. JAMA, 283, 2701-2711, 2000.
8)Bioethics Today BMA2004.
9)環境省:動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針(平成18年環境省告示第140号最終改正:平成25年環境省酷似第80号)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/laws/guideline_h25.pdf
10)CIOMS:1985 International Guiding Principles for Biomedical Research Involving Animals.
http://www.cioms.ch/index.php/publications/printablev3/541/view_bl/65/bioethics-and-health-policy-guidelines-and-other-normative-documents/34/1985-international-guiding-principles-for-biomedical-research-involving-animals?tab=getmybooksTab&is_show_data=1
11)日本学術会議:動物実験の適正な実施に向けたガイドライン.2006年6月1日.
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-k16-2.pdf
12)Leonard S., Ron F., Jonathan H., Sean K., Bhanu K., Irfan K.:Final Guidance on Electronic Source Data in Clinical Investigations. FDA, 1-32, 2014.
http://google2.fda.gov/search?q=cache:3JjWnP4EmRcJ:www.fda.gov/downloads/training/guidancewebinars/ucm383657.pdf+ALCOA&client=FDAgov&site=FDAgov&lr=&proxystylesheet=FDAgov&output=xml_no_dtd&ie=UTF-8&access=p&oe=UTF-8
13)Reflection paper on expectations for electronic source data and data transcribed to electronic data collection tools in clinical trials. European Medicines Agency, 1-13, 2010.
http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Regulatory_and_procedural_guideline/2010/08/WC500095754.pdf


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