宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 99, 2014

宇宙基地医学研究会企画

特別講演

国際宇宙探査の方向性について

田中 哲夫

宇宙航空研究開発機構

Current activities in Japan toward International Space Exploration

Tetsuo Tanaka

Japan Aerospace Exploration Agency

 国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)は2000年には有人常時滞在を開始,2009年からは常時6人がISSに滞在し活動を行っている。日本は宇宙実験棟「きぼう」や宇宙ステーション補給機「こうのとり」で参加しており,これまでのべ5人の日本人宇宙飛行士が計728日間長期滞在するなど,実績とノウハウを蓄積しつつある。一方,人類が日常的に地球周辺の宇宙で生活するようになった現在,次の目的地を月や小惑星と想定した国際協働による有人宇宙探査構想の議論がJAXAを含む14の宇宙機関が参加する国際宇宙探査協働グループ(ISECG:International Space Exploration Coordination Group)を中心に世界的に行われている。宇宙探査の国際協力に関する政府レベルの議論の場としては,国際宇宙探査フォーラム(ISEF)会合が本年1月,米国政府主導で開催された。ここでは35か国·機関が参加,ポストISSとしての国際宇宙探査の意義,重要性等に関する意見交換が行われた。2020年代はISSを宇宙探査の準備基地とした本格的な宇宙探査の黎明期となることについて主要国間のコンセンサスが形成されつつある。米国は少なくとも2024年までのISSの運用延長を表明するとともに,日本政府代表として出席した下村文部科学大臣は将来の国際宇宙探査に対して主体的に貢献すること及び次回会合を日本が主催(2016年または2017年)することを表明している。これらの状況を踏まえ,文部科学省はISS·国際宇宙探査小委員会を設置し,今後のISSへの参加のあり方,ポストISSとしての国際宇宙探査の進め方等について現在,継続審議中である。ISECGは,国際宇宙探査の具体化にむけて国際宇宙探査ロードマップ(GER:Global Exploration Roadmap)をまとめている。これは,ISSに始まり月周辺の有人探査を経て,火星に至る「実現可能で持続可能」をめざした国際有人宇宙探査の道筋を宇宙機関レベルの提案として示したものであり,国際協力によるプログラムを立ち上げるための調整用ツールという位置づけである。各国の政策や宇宙開発計画に反映させることを目指している。現在公表されている第2版 【日本語版】は,http://www.jspec.jaxa.jp/enterprise/data/GER_V2-J.pdfで入手可能である。GERでは当面ISSや無人探査等での準備活動が重要と認識しつつ,ISSの次の国際有人ミッションとして2020から30年代の月周辺ミッションとして,ラグランジェ点での長期滞在,有人月面探査,有人小惑星探査を想定している。今後,米国,欧州,ロシア,中国,インド等各国の宇宙探査に向けた動向も踏まえつつ日本としての進め方を決めていく必要がある。国際宇宙探査を人類の活動領域の拡大というフロンティアへの挑戦として位置づけ,日本の主体的なプレゼンスの発揮や技術的なチャレンジによるイノベーション創出を図るためには,宇宙探査に必要となる広範なキー技術に対し我が国にふさわしい技術を選択し集中的に取り組むことが重要である。月以遠への効率的輸送,遠くへの長期間の有人宇宙飛行,重力天体への安全な着陸と滞在·帰還が求められるなか,宇宙に長期滞在する宇宙飛行士の命を守るための宇宙医学·健康管理や生命維持·居住環境技術は日本が貢献すべき柱の一つであり,これらは究極の予防医学や省資源·エネルギー技術として,宇宙探査のみならず日本の産業競争力や社会の課題解決にも貢献するものと期待できる。