宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 97, 2014

認定医推奨セッションB

「一般医家に知られていない “酔い·めまい”」

5. めまい予備軍を涵養する現代ICT社会の日常生活─そして,誰もがめまいになる?─

岡田 智幸

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 産業医 耳鼻咽喉科

Our Information-Communication Technologies can cultivate styles of daily living and could yield any number of dizzy patients─Who knows that ?

Tomoyuki Okada

Department of Otolaryngology, St Marianna University Yokohama City Seibu Hospital

 【社会背景】 平衡(バランス)維持には,優先順位があり,前庭器官や深部知覚よりも視覚貢献度は80%以上と高い。しかも,近年視覚依存度が益々上昇していると思われる。ICT社会と言われる今日,オフィスのPCや家庭のTVは大画面,通勤途中で暇さえあればPC端末やスマホを覗きそして操作している。仕事はきっちりとWorkaholicで,休息も取らず,仕事を自宅に持ち帰り(Teleworking),運動すれば健康になると思い込み(「健康のために死ねる」という風潮すらある),Flexitimeにより,Project遂行に必要なコミュニケーション時間や時間的空間的なちょうど良い「間」もなくなった。結局彼らは,ワザワザ眼精疲労や頸腕症候群を誘発·維持·蓄積している。しかも,誰も気づいていない。
 【Human Error】 視覚依存度のさらに高くなった今日,「見えるはずだ」あるいは「見たはずだ」は,有り得ない事象が一方では存在する。ヒトは,興味ある対象物或いは学習している時に,注意するが,それでも約半数のヒトは気づかないといわれる。PC画面を5分間固視させた自験例では,輻輳反応はできるが,開散反応ができなくなり,その結果,PCモニター方向に頭部が動く。VDT(画像表示端末)作業は,固視に伴う近見反応(縮瞳+輻輳反応)の強制であり,その結果発現するVDT症候群の眼疲労および眼精疲労,瞬目減少もHuman errorの一役を担っている可能性があると思われる。そして,めまいへのステップへと前進するのではないか!?
 【めまいを涵養する因子】 朝起きてから,寝るまでそして就寝中も問題がありそうである。疲れたら休めばよいのに,予約して「健康のために」行っているスポーツジムが,義務拘束環境を作り,心身の疲労蓄積を更に助長し,むしろアダになっている事に気づいていない。眼精疲労や頸腕症候群を惹起する労働態様(VDT作業)が基本にあって,
 1. 睡眠障害,睡眠頭位(寝返りのうてない枕やマットレス)
 2. 日常生活(3D画面や大画面TV,ゲーム,スマホ,長時間におよぶインターネット検索)
 3. 余暇(サウナ,岩盤浴,無理な運動等による脱水)
 4. 振動電化製品(電動歯ブラシ,マッサージ器,低周波治療器)
 5. クールだと思い込んでいる小眼鏡
 EU諸国の閣僚の眼鏡は大きいことに気づくであろう。この方が機能的に優れているのである。実際,小眼鏡のために,めまいを自覚する患者さんが存在する。
 【視覚·聴覚機能本来の役割を拒否し,退行するヒトたち(ケータイを持ったサルたち)】歩行中スマホで,視界は奪われ,イヤーフォンで周囲に気を払うことを忘れ,自分勝手に歩き,「人にぶつかる」という患者さんも存在し,駅のホームから転落するヒトもいる。トランクを引く姿は,尾を持つサルそのものである。
 【まとめ】 新しい価値観を見出せるものづくりから生まれたものがある。前述したイヤーフォンで音楽を聞きながらのファッション。ポケットベルの出現で義務拘束環境が悪化した。携帯電話(1970大阪万博)以降,メールやゲーム機能を持ち合わせたケータイへと進化を遂げ,ファッション感覚で携帯するものが,無意識のうちに義務拘束環境をつくり,子供へも拡大した。
 ICT技術の進歩は人類に貢献できるかと考える今日この頃である。ファッションのつもりが,個人主義に拍車がかかり,めまいばかりではなく,万病の素が,現代ICT社会に潜んでいると思われる。