宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 94, 2014

認定医推奨セッションB

「一般医家に知られていない “酔い·めまい”」

2. 地震酔い·地震後めまい症候群

野村 泰之,戸井 輝夫

日本大学医学部 耳鼻咽喉 頭頸部外科学分野

Earthquake Sickness;Post Earthquake Dizziness Syndrome

Yasuyuki Nomura, Teruo Toi

Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery,Nihon University, School of Medicine

 【はじめに】 2011年3月11日の東日本大震災の際に揺れを感じた地方では,いわゆる地震酔いを多くの人々が経験した。地震が生じていない時でもあたかも地面が揺れているかのような感覚に陥る症状で,なかには症状が重く日常生活に支障をきたし,病院を受診した人たちも見受けられた。我々は当時,地震後の混乱が続く東京圏において3,000名以上に及ぶ疫学調査を実施し,この酔い症状について検討した。
 【対象·方法】 東京都と千葉県の成人及び学童3,000名以上に自己記入式質問紙法の疫学調査を実施した。
 【結果】 成人1,186名(回収率61.5%),学童1,862名(小学5,6年生,中学生,高校生,回収率91.7%)から回答を得て,多重ロジスティック解析にて検定した。
 有訴者率は成人·学童ともに有意に女性に多く,成人は有意に50歳以下の年齢層が多かった。学童では有意に小学生が多かった。過去に乗り物酔いをしやすかった人が有意に多く罹患していたが,めまいの既往や気質との関連はなかった。
 症状としては屋内で座位などの静止時に1分以内の揺れ感覚を自覚することが多く,自律神経症状などの随伴症状は少なかった。ただし医療機関を受診した症状の重い人たちでは気質として心配性の割合が高く,随伴症状も多かった。
 【考察】 世界各地での大地震に伴うめまい症状について,数は少ないものの幾つかの報告がある。しかし本研究のような大規模調査の報告はなく,地震後めまい症候群(Post Earthquake Dizziness Syndrome)と呼称した。
 地震を経験した人のうち,実に約8割もの人々が地震後めまい症候群を自覚していた。地震酔いは広義的なめまいの分類としては動揺病の範疇に含まれるもので,世界各地での報告と同じように地震に伴う精神的な不安感がめまい症状を増悪させたと考えられる。長時間の動揺刺激によって惹起される本来の動揺病とは異なる病態点もあるが,動揺病への易感受性を持った人々のほうが罹患しやすく,不安·心配性な気質の人のほうが重症化しやすいことも判明した。病態機序,治療法,予防法などについて検討し,地震国の宿命として将来日本のどこかで必ずまた起きる大地震に備えることとした。備えあれば,憂いなし。