宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 88, 2014

認定医推奨セッションA

「宇宙精神心理学上の諸解題と対策」

2.  睡眠と覚醒,睡眠評価装置の開発「睡眠の自己診断及び遠隔医療のための無線式携帯型脳波計の開発」

裏出 良博

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構

 1924年にHans Burgerにより脳波が発見され,睡眠研究に客観的な評価法が導入された。脳波を測定すれば夢を見るレム睡眠と,意識を失い記憶の定着に有効なノンレム睡眠が区別でき,ノンレム睡眠の深度も判定できる。脳波は睡眠判定のゴールデン·スタンダードである。しかし,睡眠障害の診断に使われる終夜睡眠ポリグラフ検査では,複数の脳波電極以外に,眼電位,筋電位,呼吸,いびき,血中酸素濃度などの様々なセンサーを顔面や上半身に設置し,病室で一泊する必要がある。この様な拘束感が強く非日常的な環境では,我々の日常の睡眠を知ることはできない。そこで,マウスなどの小動物の睡眠測定法を応用して,一対の脳波電極を用いた人間用の携帯型脳波計を開発した。この装置は,南極昭和基地の越冬隊員の睡眠遠隔モニターや,古川·星出両宇宙飛行士の国際宇宙ステーション滞在中の睡眠計測にも使用された。現在開発中の無線式携帯型脳波計を用いた自宅での睡眠測定と,スマートフォンによるデータ伝送を組み合わせたクラウド型睡眠診断システムを構築すれば,睡眠の自己診断が可能になり,医療費の削減や国民の公衆衛生に大きく貢献できる。