宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 87, 2014

認定医推奨セッションA

「宇宙精神心理学上の諸解題と対策」

1. 宇宙精神心理学上の諸課題と脱同調ガイドライン

緒方 克彦,阿部 高志,鈴木 豪

宇宙航空研究開発機構

Psycho-physiological Issues and Guideline for Management of Circadian Desynchrony

Katsuhiko Ogata, Takashi Abe, Go Suzuki

Japan Aerospace Exploration Agency

 多数者間医学運用パネル(MMOP)の下には12部門の分科会が存在するが,その一つである宇宙精神心理分科会(SHBP)が,1年ミッションや探査計画など長期に亘る宇宙滞在時に深刻な問題となりうる睡眠異常,概日リズム,ストレスと疲労,そしてワークレストバランス等の問題を解決する事が急務と定め,疲労マネジメントチーム(FMT)を発足させたのは2009年のことだった。FMTは脱同調から生ずるこうした諸問題に包括的にアプローチするため,アサインメント後に開始する対処教育,軌道上或いは地上において睡眠や疲労度の測定,専門家に相談できる体制づくり,光療法や睡眠導入剤等を用いた予防対処を含む治療の実施等を定めたガイドラインを制定すべく作業を開始した。
 FMTが立案したガイドラインは3年間の歳月を経て,2012年SHBP分科会にて承認,更に翌2013年MMOP本委員会を経て,2014年ISS文書として認可され,正式に医学運用される運びとなった。FMTは,今後は医学運用面での促進活動に力を入れることになる。ガイドラインに定められた事項は推奨プログラム(努力規定)であり必須ではないが,@脱同調に関わる事前教育,A 個人特性を評価し訓練に反映,B 使用する薬剤の効果と副作用評価,C シフトワークスケジュールへの助言,D ミッション終了後の事後評価等について規定している。既にESA(欧州宇宙庁)では多種の光療法設備施設を設置して帰還プログラムに備え,NASAでは打ち上げ前あらかじめ使用する睡眠導入剤についてチェックしておく地上試験を開始する。これらの中でも特に 「睡眠 (覚醒度) · 疲労の評価」と 「光療法·治療薬等の対処」については,各エージェンシーが確立した方法を考案·確立し,導入できるようになっている。
 これらの中でも「睡眠(覚醒度)· 疲労の評価」と「光療法 · 治療薬等の対処」については,各エージェンシーが確立した方法を採択できるようになっており,JAXAとしてもこの方面に関する研究や実証に手掛けていく所存である。現時点で我々は,JAXA独自の脱同調対処方法に向けて必要となる,軌道上脳波計,同覚醒度測定器,睡眠導入剤の開発,ストレスと疲労度調査,の4項目について実施していくことを考えている。今回は当ガイドラインの概要を説明するとともに,JAXAが手掛ける精神心理研究の全体像を紹介する。